続・蝶の行方を知っているか

*1059bsrとのクロスオーバー


 少年と青年の境目に立つ体は、本人が思っているよりも大きく活力に溢れている。故に、ちょっと乱暴に足を運んだつもりが、強く床を打ち鳴らすことになるのだ。
 そんなわけで騒々しく足音を響かせながら部屋に入ってきた彼は、苦々しく吐き捨てた。
「ベルが“いつもの遊び”で殺した相手が、ジャパニーズマフィアの幹部だった」
「それはそれは。一大事よなあ?」
 ヒヒッと喉の奥で笑えば、笑いごとじゃないと不機嫌な声が返ってくる。
「幸い、事態を把握しているのは僕たちだけで、あちら側にも9代目にもまだ知られていない」
「ならば早に始末をつけやれ」
「――それが出来たらどんなに楽か!」
 殺してしまった男が所属していたのは、ボンゴレと同盟や協定は結んでいないものの、長年、互いに不可侵を守ってきた組織だという。頭は好戦的な男と聞くが、部下を大切にし、勝ち目のない戦よりは安定を選ぶようだ。だが部下を大事にしているからこそ今回のことは許さないはず。また、そこのファミリーは、末端の部下までもがボスに心酔しきっていて、こちらがボスを倒したとしても誰一人として靡きそうもなく、ヴァリアー幹部全員でかからせても事態の収拾にどれだけかかるかわからない。向こうの同盟ファミリーも黙っていないはずだし。
 一気に捲し立てたあとは、切れてしまうのではと思うほど唇を強く噛み締め、黙り込む。
 落ち着きやれ、と大谷は諭すように声をかけた。
「事実が公になるまでの時間を如何程稼げよう?」
 無言で指が二本立てられる。
「ふむ。潰す理由を仕込むにはちと足りぬな」
 やはりか。大谷の言葉にがっくりと項垂れた年若いマフィアの頭に、どこからか飛んできたオレンジが直撃した。
「痛ッ」
「なにを悄気返っておる。戦えぬならば交渉する他ないであろ」
「っ、ベルは渡さない! あれはザンザスが選んだ子だ、ザンザスのものを死なせるわけにはいかない!」
 瞳に怒りの炎が宿り、大谷をきつく睨み付けるが、今更怯む大谷でもない。凶王と呼ばれたあの男に比べればこれは子猫が威嚇しているようなものだ。
 だったらどうするというのか。じぃっと見やれば、一秒前までの苛烈さが嘘のようにふにゃりと琥珀が蕩けだす。
「…………正直に謝ったら許してくれないかな?」
 小首を傾げ、潤んだ瞳で上目遣い。
 同じ表情で「ごめんなさい」をすれば可能性はあると大谷は思ったが、残念ながら、これは大谷にしか見せない顔である。
 彼は、最強の暗殺部隊を率いる者として、また、ボンゴレファミリーの10代目候補として、相応しくないと思う振る舞いは死んでもしない。酷く幼い内面を隠し、必死に冷徹なマフィアたろうとしている。
 そんな彼が、何故か大谷だけには気を許しきった表情を向けるのである。業の病を患って以降、常に周囲から疎まれ蔑まれてきた大谷にとっては、未だ慣れないことだ。この世界では治療法が確立し、感染力もないと知られている病であるが、すでに戦国乱世で病みきった体は目を背けたくなる醜さであるというのに。包帯で全身を覆った異様な姿は相変わらずだし、事実、不躾な視線や陰で囁かれる悪意の言葉たちはここでも日常だ。
 しかし、彼に大谷の病を気にする素振りはない。一度として。初めて会ったときからずっと。

「畑の所有が多いみたいだから肥料とか…あと重機? 送ってみようかなぁ」
 パラパラと書類を捲りながら紡がれる言葉は妙に明るかった。やけになっているようである。
「あ、向こうのボスは剣の達人だってさ。スクアーロと戦わせたらうやむやになるかもっ」
「……われにも見せよ」
 溜め息を吐き、手を伸ばす。
 滑るような手触りの、真白の紙に記された文字は、大谷がこの数年で何とか読み書きを習得した異国の言語――イタリア語だ。
 件のファミリーの財政状況に加え、構成人数、主要構成員のプロフィールが記載されている。問題発生からそれほど時間が経っていないとは思えぬ情報量。流石のヴァリアークオリティだ。
 白黒反転した不思議な輝きの瞳がすらすらと文字を辿る。ところが、ある文章に差し掛かったところで、大谷は息を呑んだ。
「本当にそんなに強いのかな、独眼竜って」
 大谷の様子に気付くことなく、半信半疑といった声音が呟いたのは、大谷が見つめる書面にも記されているジャパニーズマフィアのボスの異称だった。

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