違う世界へ(2)

 雲の守護者の猛攻&猛追をなんとか振りきった僕は、当てもなく町内を歩き回ったあと、公園のベンチに腰を落ち着けた。
 ここは間違いなくパラレルワールドであるらしい。この異なる世界に、僕は意識だけ飛んできてしまった。そう、意識だけ。
 ……鏡に映った姿は“僕”ではなかった。詰襟の学生服に身を包んだ、眼鏡をかけた少年。それが今の僕の姿。てっきり、十年後の自分と入れ替わるように、パラレルワールドの自分とそっくりそのまま入れ替わったのだと思っていたものだから本当にびっくりして、固まってしまった。危うく雲の守護者に捕まるところだった。

 制服の内ポケットに、学生証が入っているのを見つけた。
 それによると、ツっ君たちとは別の学校に通っている“彼”の名前は僕と同じ。髪と瞳の色も同じ。顔の造形もそう変わらない……ううん、彼は僕よりも少し父さん似かもしれないけど。並んだらきっと「ご兄弟でよく似ていらっしゃるのね」なんて言われる程度にはそっくりだ。
 はっきり違っているのは、生まれた年が僕よりも数年遅いことと、鍛えているらしいが体力筋力ともにあくまで一般人レベルなところ。後者は結構問題だ。意識に肉体がついてこれなくて、逃げているとき何度か転びそうになってしまった。
 あと、視力がかなり悪い。かけていた眼鏡を試しに外してみれば想像以上に視界がぼやけた。不便だ。
 そして何よりも。
「……」
 開いた両手を見下ろして溜め息を吐く。
 ここまで違うものなのか、と頭を抱えたくなる。まあ、僕の所為で、この肉体に何らかの変化が起きている可能性もあるが。
「ちゃおっス」
 ビクッと大きく肩を揺らした自分にこそ驚いた。いくら相手がアルコバレーノだったとしても、普段なら声をかけられる前に気付けたはず。
「珍しいな、こんなところで。何かあったのか」
 言葉に詰まった。
 この赤ん坊は、ここでも弟の家庭教師をしているのだろう。つまり僕らは家で同居していることになるわけだ。
 特有の高い声が不思議そうに僕の名前を呼んだ。
 答えなければ怪しまれる。でも、なんて返せばいいんだ。どんな言葉を?どんな口調で?どんな表情を浮かべながら?
 わからない。
 普段なら、わかったはず。この二人の距離感を。適切な返答を。
 ――超直感さえ扱えれば。
「いや、ちょっと」
 緩く微笑んで短く返す。
 無難な答えだったと思う。彼がどんな人間だとしても然程不自然ではないような言動。大人しい性格の少年らしい控えめな笑みにも、明るく元気な少年がちょっとした悩み事を隠そうとする笑みにも、どちらにも見える曖昧な微笑みを心掛けた。
 しかし。

「――何者だ?」

 向けられた銃口が失敗を物語る。

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