もしもサンタを信じていたら

 ボンゴレファミリー元10代目候補の二人曰く、サンタクロースは存在するらしい。
「……冗談キツいんだけど」
「ベル」
「っ、な、なに……ボス……」
「そうやってサンタを馬鹿にすることばかり言ってるから、テメーのところには来なかったんだ」
「えっ」
 いやいやいや、なに言ってんの!とベルは心の中で盛大にツッコミをいれた。でも少しだけ不安にもなる。何せあのザンザスがこんな大真面目な顔で言うくらいだ。本当にサンタクロースがいるのでは、と思ってしまう。一度もオレのところに来てくれたことがないのはオレが悪い子だったから?、と。横に座るマーモンが「しっかりしなよ」と言ってくれなければ、恐らくはサンタの存在を信じはじめていたかもしれない。
「トナカイもいたよな! 絵本の通り、ちゃんと九頭!」
「ああ。本とは違って、目付きがかなり鋭かったがな。あれはとてもカタギには見えなかった」
「やっぱり、サンタさんを守るため強くないとダメなんだろうね。色んな国を行き来するわけだから危険もいっぱいあるんだろうし」
 うんうん頷きあう二人に、ベルはごくりと唾を飲み込んで、恐る恐る口を挟んだ。
「それってボンゴレの誰かがやってたんじゃ…」
「はあ?」
「まだ疑うのか」
 呆れた、と言わんばかりの大きな溜め息のあと。
「いいか、ベル。いくらなんでも9代目や父さんがサンタの格好してたら、僕はともかくとしてザンザスは気がつくって」
「当然だ。絶対にあれは知らねージジイだった」
 力説する二人に、それ以上の反論を口に出来る者はいなかった。




×

〜 十数年前、ボンゴレ本部にて 〜

 赤ん坊はボルサリーノをくいっと引き下げて、
「どうやら一大事みてーだな」
 真剣な声音で言った。
 彼の前に立つのは、ボンゴレ9代目とその守護者たち、それからボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーのボスにして剣の帝王テュール、更にはボンゴレ門外顧問沢田家光。ボンゴレファミリーの核、まさに心臓部といえる彼らが一堂に会し、その上、全員が酷く深刻な表情を浮かべているのである。間違いなく異常事態だ。
「友よ。お前の力を貸してくれ」
 家光の縋りつくような声に、リボーンは覚悟を決めるがごとく、息を吐き出した。大きな組織との抗争か、はたまた内部で争いの炎が燃え上がろうとしているのか。この雰囲気下では何を言われても驚かない。そう思っていたリボーンは、しかし、大きな瞳を丸くすることになる。


 簡潔にまとめると、ボンゴレからのリボーンへの依頼はこうである。
 幼い二人の10代目候補に、サンタクロースからのプレゼントを渡したい。けれど幼いながらも鋭い10代目候補たちは、市販のサンタ服を着込み付け髭をつけたぐらいでは騙されてくれないだろう。そこで超一流の殺し屋であると同時に変装の達人でもあるリボーンに協力してもらいたい。
 殺し屋がこの風変わりな依頼を受けて一ヶ月。
 ボンゴレ本部のある部屋に、一ヶ月前と同じ面々が揃っていた。
 広い室内を横断するように張られた垂れ幕には、赤と緑の文字が躍る。
“第一回 ボンゴレファミリー サンタクロースオーディション会場”
 審査を見守るのは、七人の――いや、七頭のトナカイたちだ。着ぐるみを着た、もとい着させられた9代目の守護者六人と剣帝テュールの目は死んだ魚のように淀んでいる。
 彼らの視線の先にはサンタクロースの衣裳を身に纏ったボスと門外顧問。
 一人いつものスーツ姿の赤ん坊の胸には、JUDGEと書かれたプレートが輝いていた。
 リボーンが演技がかった咳払いをして。
「それでは審査結果を発表する」
 ごくり。誰かが唾を飲み込んだ。
「まず、家光だが」
「――おう」
 マフィア界で若獅子と恐れられた男の顔には、隠しきれない緊張の色が浮かぶ。
「“HoHoHo”の笑い声が見事で、身振りにもサンタらしさがよく出ていた」
 家光がパッと明るい顔になるのとは対照的に、9代目は悔しそうに俯いた。リボーンは二人の顔を見ながら、しかし、と続ける。
「サンタクロースをやるにはちょっと若すぎるな」
「おい!」
 この一ヶ月の努力は何だったんだ!
 年齢なんて努力のしようもない部分で負けるとは。納得がいかない。抗議しようとした家光より早く、9代目が口を開いた。
「では、リボーン」
 キラリと期待に輝く瞳を見返して、赤ん坊は小さく頷いた。
「9代目の徹底ぶりには驚かされたぞ。まさか髭を伸ばしてくるとはな。……だが、ミルクとクッキーを食べる姿が上品すぎる。プレゼントを渡すサンタというよりもヴ○ルタースオリジナルを渡す祖父のようだったから、9代目も失格だ」
「なっ、なんだと!」
「二人とも失格なら誰がサンタ役をやるっていうんだ!?」
「安心しろ。ちゃんと適任者を呼んである」
 感情の読めない、黒曜石のような瞳が、扉のある方向を示した。視線を追った二人が驚愕の声をあげる。
「タルボじじ様!?」
 ボンゴレファミリーの彫金師、タルボ。いつもの杖ではなく赤と緑のクリスマスカラーのステッキをついて、頭にはもちろん帽子を被り、赤と白の衣裳をばっちり着こなしている。
 見えないはずの目が家光と9代目に向けられる。ぎくりと肩を揺らす二人に、タルボは残る数本の歯を剥き出してニッと笑った。任せろとでも言うように。
「……そんな……」
 がっくりと膝をつく二人。俺たちはどうすればいいんだ、という悲痛な呟きに赤ん坊が答える。
「最後尾のトナカイか、助手のエルフ。じゃんけんでもして、どっちがどっちをやるか早いとこ決めろ」
 そう言って二人に衣裳を投げつけたリボーンは、ちゃっかり、サンタクロースの次に――もしかしたらサンタ以上に――花形である“赤鼻のトナカイ”に扮していた。




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