ナイフは愛を切り取る為に

「きみが最年少で幹部入りを果たしたっていう子?」
 ベルフェゴールは小さな頭を上向けて、男を見やった。
「……最年少じゃねーだろ。オレよりもっとチビがいんじゃん」
 隣に座る赤ん坊がムッと唇を引き結ぶのを横目に、あーあ、と溜め息を吐いてソファーに沈み込む。
 入隊テストは楽勝だった。最強の暗殺部隊といっても大したことはないらしい。こんなのつまらない。
 まあ、目の前の男は……少しは楽しめそうだが。
「なあ。お前、オレとちょっと遊ぼうぜ」
 冗談はよしてくれ、と男が頭を掻く。
「俺はただの料理人だぜ」
「ただの料理人には見えねーけど。料理ってのは殺人の比喩なんだろ?」
「いいや最高に美味しい料理を作るのが仕事だ」
「……つまんねーの。でも、ちょうどいいや。オレ腹減ってるんだよね」
「よし、ボス用の肉使っちゃおう」
「怒られるよ」
 それまで黙って二人の会話を聞いていた赤ん坊が口を挟む。だが男は大丈夫大丈夫と豪快に笑い、
「ルッスーリアが買い出しに行ってるんだけど、寄り道してるみたいでまだまだかかりそうだし。王子様にはとっておきの料理をお出ししなきゃな」
 こいつなかなか分かってんじゃん、とベルは上機嫌になった。

 男の言う通り、出てきた料理は最高に美味しかった。生まれ育った城にもこんなに美味いものを作るシェフはいなかった。ベルは夢中になって、出された数々の絶品料理を平らげていく。
 特にメインディッシュが最高だった。
「これ、何の肉だ?」
 さっき言っていた“ボス用の肉”だろうか。肉厚なのに柔らかい。口一杯に広がる肉汁がソースとよく合っている。
「それは……」
「あら〜!」
 妙に甲高い声が言葉を遮った。
 ベルは振り返り、ゲ、と呟く。大きな荷物を携えた筋肉質なモヒカン男が、なよなよした走りでこちらに駆け寄ってくるではないか。
「この子が噂の王子様ね? あ〜ん、とっても可愛いじゃないの、食べちゃいたいくらいだわ! 私はルッスーリアよ、気軽にルッス姐さんって呼んでね」
 チュッと投げられたキスを避けて。
「誰が呼ぶか。キモいんだよ変態野郎。それ以上近寄ったら切り刻むぞ」
「んまあ〜! なんて生意気なの! 全然可愛くなかったわ!」
「だってオレ王子だもん」
「王子様ならもっとお上品な言葉遣いをしなさい! まったくもう、こんな子だって知ってたらわざわざ買い物になんか行かなかったのに」
 頼んでねーよ、という言葉を飲み込み、ベルは絶句する。ルッスーリアが開いた鞄の中から出てきたのは――。
「あら?」
「どうしたんだろうな」
 いきなり口を押さえ部屋から飛び出していってしまった小さな王子様に、二人は首を傾げる。
 唯一、マーモンだけは全てを察しフンと鼻を鳴らした。いい気味だ。生意気な子供にはちょうどいいお仕置きになっただろう。
 しかし、仲間に一言言うことも忘れない。
「ルッスーリア、食材と同じ鞄に死体を詰めるのはどうなんだい?」
「ちゃんとビニールで覆ってるから大丈夫よ! だっていきなり敵討ちだーって襲ってきたのよ? 知ってたらちゃんと“お持ち帰り”用のトランクも持っていったのに」
「それで帰りが遅くなったのか」
 死体の下から新鮮な野菜や魚、そして牛や豚・鶏の肉を取り出しながらルッスーリアが頷く。
「待たせてごめんなさいね。無視しようと思ったんだけど、あまりに私好みのカラダをしてたから〜」
「ああ、確かに身の引き締まった良い肉だ」
 死体を触り、男がうっそりと笑った。
 ベルフェゴールの勘違いはもしかしたら勘違いじゃないかもしれない。
 ――そんな考えがふと浮かんで、マーモンは慌てて頭を振った。

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