違う世界へ
「……ここは……」
室内をぐるりと見回す。ソファーや机といった家具の配置を見る限り、客を通し応対するための部屋のようだ。
聞こえてくる声に誘われて、窓から外を窺う。グラウンドを少年少女たちが駆けているのが見える。
この場所を僕は知っていた。忘れるはずがない。あの争奪戦の会場となった場所だ。
ギュッと拳を握る。
さっきまでイタリアにいた僕が何故並盛にいるのか。単に瞬間移動したのならいいんだが。いや、それもよくないけど。
誰かが部屋に入ってくるのが分かって振り向いた。
少年――雲の守護者だ――の切れ長の瞳に、親しげな光が浮かんでいる。そのことに少しだけ驚き、そして失望する。
やはりここは、“僕”の世界ではないのか、と。
少年もまた、僕が“彼”でないことに気づいたようだ。仕込みトンファーを取り出し、襲いかかってくる。辛うじて攻撃を避けながら、僕は少年の名前を思い出そうとしていた。
「君は誰だい?」
お前こそ誰だっけ。たしか、三文字で、鳥の名前だった気がする。
すずめ? つばめ?
うーん。
「ここに居たはずの彼はどこ? 君は、よく似ているけれど違う」
「さあな。“僕”の世界かな」
ふざけていると思ったのだろう。少年の眼差しが一層きつさを増した。