正直者は白昼夢をみる

話をするときは目を見て話せ、なんて、そんなことを律儀に守り続けていたけど、まさかそれが仇になるなんて思ってもみなかったなぁ。
食い入るように目の前の人の瞳を見つめながら現実逃避に走ってみるけど、どうにも、本当に、いやうん、かなりヤバい状況みたいだよ。どうしようこれ。体が動かない。呼吸はできるのにそれ以外は石みたいに動かない。動いてくれない。
何がどうしてこうなったのか、現実逃避がてらちらっと思い出してみる。

学校帰りで、いつもの道を歩いてて、でも人通りが少ないのはいつものことで、そんななかで声をかけられた。珍しいこともあるなぁって思って後ろを振り返ったら、超絶イケメンがいてめっちゃビックリした。ビックリしすぎて世間話したはずなのに内容がまったく思い出せないくらい。はぁー、こんな地方にもイケメンいるんだなぁって心のなかで思いながら話してたのだけ覚えてる。
そこから、そろそろ家に帰ろうと思って、それではって言って私が歩き始めたら、待ってくださいって呼び止められて。最後に一つだけって言われて振り返ってその人を見たら、何故か体が動かなくなった。

それで、こんな寝起きでもなんでもないのに金縛りとかあり得ない何これって心の中で震えながら思ってるわけだけども。

現実逃避に走る私のことを察してか、察していないのかよく分からないけど。そんな私を見ながら、にっこり、と擬音が聞こえてきそうな笑顔でその人は言う。

「おいで」

その一言で体は勝手に動く。

さっきまでまったく動かなかったのに私の体どうしたの!?どうして声かけられるだけで動くの!?あれ!?
確かにイケメンさんの近くに行けるのは嬉しいけど、この状況はさすがに怪しくて怖いよ!お願いだからいうことを聞いて私の体!?

そんなパニック状態の思考でも体は勝手に動いて、とうとう笑みを浮かべるその人の前にまで来てしまった。でも、その笑顔に不安しか感じられなくて、今すぐに逃げ出したかった。

その人はぞっとするほど美しい笑顔で、優しげな声と一緒に私の頬に手を添える。

「大丈夫。すぐに終わるよ」

また、だ。そんな一言で、今度は考えることすら難しくなってくる。パニックになることすらできなくて。ぼんやりと、大丈夫なんかじゃないのになって思うくらい、どんどん、何も、考えられなく、なってく。

「大丈夫。怖いことなんて、何もないよ」

ゆっくり、私に覚え込ませるように、私の耳元で言ってくる。何も、本当に、こわくないのかな。大丈夫かも、しれない?頬に添えられていた手はいつの間にか首の方に動いているのを感じながら、ぼうっと考える。

「大丈夫。ただ少しだけ、君は夢を見るだけだよ」

それを聞いて、そうか、これって夢なんだなって思った瞬間、


首元がひどく痛んだ。
それと同時に何かを啜る音も聞こえて。


しばらく、自分の呻き声と何かを啜る音を聞いた後で、視界が真っ暗になった。


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