▽「毒を食らわば」 サンプル | ナノ


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「サボ、こんにちは」

「ルフィ……」



漆黒の美しい髪を揺らしながら、少し気まずそうに顔を出したのは、バリテラ王の三つ下の弟、ポートガス・D・ルフィ大公だった。
本来王の弟妹というものは、王に成り代わらんと反乱を起こすと危惧され、王都から少し離れた土地に領地を与えられ治めるのが主である。
しかしバリテラのこの兄弟は本当に仲がいいと評判で、されにそれを証明するように弟のルフィは兄から大公の名と、その補佐という地位を与えられた。
そして戦事となれば、王の右腕として必ず共に出兵している。
今回もそうだろうと思っていたバルティゴの王サボは、何故か自国の自分の執務室に現れたその少年に、少し驚きながらも彼を迎え入れた。



「どうしたんだいルフィ、俺はてっきりついて行ったのかと思っていたよ」

「んー途中までは戦に参加してたんだけどな、なんかつまんなくなって帰ってきた!」



そう無邪気にいうルフィは、戦争をゲームのように楽しんでいる所がある。
確かにバリテラに武力で勝てる国は今現在ないに等しい。
しかし王自ら参戦しているというのにこの物言いは如何なものかと何も知らない者は思っている事だろう。
だがこの王自らの参戦がバリテラの圧倒的勝利を物語っている。



「だってさ、気が付いたら全部エースがやっつけちまってるんだもん!」



不貞腐れたように唇を突出しそう語るルフィに、サボは苦笑しながら用意させた紅茶に口を付けた。
バリテラの王エースは臣下達がほとほと困り果てる程戦の最前線に出向く。
古い臣下の引き留める声を聞きもせずよく突っ走りそして勝利を収めて帰ってくるものだから、臣下、主に騎士達は自分の仕事を成し遂げることが出来ず戦の度に肩を落としていると聞く。
それでもあの国全体が王であるエースに従うのは、その絶対的強さとカリスマ性が皆を引きつけてやまないからであろうとサボは考える。
なんにせよエースの功績で国は大きくなっているのだ、代々続く古い臣下達は誰も彼に文句一つ言える立場では正直なかった。



「ルフィ、もしかして一人で来たのかい?」

「ん?そうだぞ!」



そんな絶対的王にある唯一の弱点がこの弟、ルフィだ。
その過保護さは誰もが呆れ返り、首を横に振るほどである。
そんな弟を一人、エースが戦火から返す筈がない。
と、いうことは。



「エースに黙って帰ってきた!」

「やっぱり……」


ルフィも兄に負けず劣らず強い。
戦でこの兄弟は最強とまで言われている。
が、しかしこの弟、戦争以外はからっきし無知だ。
誰かに騙されてもそれを信じてしまう素直さは賞賛されるが、反面いつそれを逆手に取られるかと周りは不安でならない。



「あのなルフィ、お前はバリテラの王弟でありポートガス大公であり、所謂ルフィ殿下って呼ばれる立場なの、わかってるか?」

「わかってるぞ!」



全然全くこれっぽっちも信用できない元気な返事にサボは頭を抱えた。
きっとエースは自分が守っていくからと、そういった知識や危機感の存在についてルフィに教えたことはないのだろう。



「ルフィ、お前いつか悪い大人にとって食われちまうぞ?」



一度だけ口を付けた紅茶に一度視線を向けてから、サボは部屋に控えていたメイドを下がらせる。
ルフィが一つ砂糖を摘まみ、サボが口を付けたカップにコロリと投げ入れた。
まだ温かい紅茶の熱で、形がゆっくり崩れていく。






本文:P4〜5より抜粋





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