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ルフィがこの家で過ごすようになったのは、恐らくエースとの仲が少し変わったからである。
仲の良い兄弟、これを少し超えた所謂恋人同士。
「ん?なんだお前、怪我してんじゃねぇか」
「えー、どこだ?」
「ほれ、ここ」
右の二の腕のあたりに出来ている小さな切り傷。
恐らく先ほどナイフで付けられたであろうそこからは、少し血も出てきている。
「舐めてりゃ治るぞ」
「ンじゃ舐めてやるよ」
ころりと向きを変えたエースは、そこをなぞる様に舌先で触れる。
少し汗ばんだ肌を、ぬるりと舌が這う感覚にルフィはびくりと体を揺らした。
その様子にエースは口端を上げるとルフィの上に馬乗りになった。
見下ろしたルフィの顔は、少し沁みたのか大きな瞳が潤んでいる。
身動きができないルフィの頬をそっと撫でると、うっすらと赤みが差した頬にこちらの頬も緩んだ。
「な、ルフィ。好きだよ」
「俺もエースの事好きだ」
「キス、してもいいか?」
ぐっと迫り額がぴたりと触れ合う距離。
唇が触れるか触れないかの距離で声を発するエースに、むず痒さを感じながらもルフィはそっと目を閉じた。
そっと触れて、離れて。
角度を変えて繰り返される行為に物足りなさを感じそっと目を開けると、そこには自分を見つめるただ一つの瞳があった。
「えー、す」
「ん?」
「すきだ」
「あぁ」
返事と共に、開かれた唇が包み込むように降ってくる。
その暖かいぬくもりの中でもっとも熱い塊が、ルフィに進入を試みようとぐっと押し付けられた。
それに答えるため少しだけ隙間を開けてやると、うねる塊はすんなりと入り込み口内をぐるりと掻き回す。
「んっ」
少しだけ苦しくなって呼吸をしようとするが、息は鼻から抜け甘い音となった。
恥ずかしさで瞳を開けられないルフィは、エースがどんな表情をしているかわからない。
それでもすぐ傍で感じられるエースの熱の籠った息に、エースも気持ち良いのだと感じる。
「ん、ンンッ」
少しだけ強引になった熱が、ルフィの熱も絡み取り激しく求め合うようにうねる。
ぐちゃぐちゃに掻き回されたかと思えば、優しく慈しむように舌を吸われ、思わず体がびくりと震えた。
そろそろ呼吸も苦しくなってきた。
それを伝えるため、口内を好き勝手に弄ぶ相手の胸を軽く叩く。
「ハッ、ふゥ……っ」
「悪い、夢中になっちまった」
全く悪びれた様子のない兄に、弟は毎度苦労をする。
先に惚れた方が負けと言うが、自分達の関係は兄が先だというのに負けているのは弟の方だったりするのだ。
「眠いから俺寝るぞ!」
そんな時は決まって不貞寝をするルフィに、エースはヘイヘイとあっさり身を引く。
あまり機嫌を損ねてしまっては、肝心の夜に何もさせてくれなくなるかもしれないからだ。
それでも溜まった熱はなかなか逃げてはくれない。
それを吐き出すため、そっぽを向いてしまったルフィの頬に軽くキスをしてからエースは外へと足を向けた。
本文:P6〜8より抜粋