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お気に入りの悪夢(エール)


※パロ・微病み?



銃声だとか、悲鳴だとか、そんなものは一瞬にして聴こえなくなった。ただ目の前にいる弟だけが全ての感覚を支配していたのではないかとさえ思う。それくらい、弟だけに意識は自然と集中した。傷だらけの体にこびりついた赤はまるで弟を引き立てるために飛び散っているようだった。あぁなんて美しいんだと触れようとするが、弟はゆっくりと笑みを零し離れて行く。行かないでくれ、俺をここに置いて行かないでくれと願っても弟は真っ赤な海に溺れていくのだ。海は俺の足元まで広がっていて、そして俺はその沈み行く姿をただじっと見つめる。勿論弟を助けようと心はもがいている。けれど、どこか頭の隅で満足している自分がいた。苦しむこともなく逝く姿は、死に逝く者の顔ではないように見えたのだ。だからかと問われれば答えは少し違うのだが、何故か、何故かその弟の姿に安心している自分がいる。呼吸は、違う意味で乱れた。



と、そこでいつも目が覚める。
見上げた天井はいつものもので、生まれてから20年間一度も変わらない。
ふと視線を右に移すと、そこには先程まで夢で血まみれになっていた弟がすやすやと眠っていた。
今年で17にもなるのにどうやら兄離れが出来ないらしい。
というより自分がさせないのかもしれないが。
むにゃむにゃとなにやら意味の解らぬ寝言を言っていると思いきや、時たま洩れる自分の名前にドキリとさせられる。
なんて可愛いんだ俺の弟は、と言えば古い友人にはいい加減にしろブラコンと言われてしまうだろうが、これは仕方がないことだと思う。
ふにふにと柔らかい頬を撫でて寝顔を楽しんでいると、そこで何故かふと弟の古傷が目についた。
左目の調度真下にある痛々しい跡は、弟が駄々をこねた挙げ句自分で刺して出来たものだ。
指先で触れると少し窪んだ感覚が伝わる。
ここから血を流しながらこちらに向かい必死で訴える弟は、まるで泣いているように見えたものだ。



「ルフィ……」



何となしに名前を呼んでみるも、起きる様子が微塵もない弟に思わず苦笑してしまう。
外はもう明るくなり、カーテンから漏れる朝日が顔を照らしている。
しかしこの安らかな寝顔が夢の弟の顔と被ったので、今日はもう少し寝かせてやることにした。















お気に入りの悪夢

(何度見ても納まらない、この興奮の原因を見つけるまで。今はゆっくりおやすみブラザー)









END



自分が知らない弟の姿があることが許せなかった。
だからお前の最後を見届けてから死んで、お前が生まれる前に存在して。
すべてをこの目に収めたいのだ。

みたいな兄ちゃんを書きたかった(願望で終わった←)


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テーマ「人外ファンタジー」
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