宝物 | ナノ
灯火


※溺愛設定 時系列3部






灯火


「どうだった?」
パソコンのキーをかたかたと打つエース。
ルフィの様子からもう解っていたが、あえて尋ねた。
「お前たち二人で行けってさ。用もあるし行かねェって」
少ししょげているルフィ。
ケータイをしばらく眺めてから、ため息をついてベッドサイドに置いた。
「3人で花火見たかったんだけどな。サボの浴衣もあるのに」
枕を抱えてごろごろとベッドを転がる。
サボのヤツ気ィ使いやがって。
苦笑したエースはマウスを動かしてファイルを閉じた。
キイ、と幽かな音をたててイスを回転させる。
「もう終わったのか?」
途端にルフィが目を輝かせる。
抱いていた枕を放ってエースの膝の上に乗った。

エース、ルフィ、サボ。
3人は血の繋がっていない兄弟だ。
エースとルフィは一緒に暮らしている。
そして2人の関係は兄弟だけではなかった。

長いキスと零れる息。
漸く唇を離して見つめ合う。
甘えるようにルフィはエースにしがみついた。
逞しい腕でその背中をあやすエース。
「花火大会はもうちょっと遠く行きゃまだある。そん時3人で行こうぜ」
「うん!」
サボありがとうな。
心の中で呟いてエースは目を細めた。


その日はすぐに訪れた。
笑顔を浮かべたたくさんの人が行き交う。
並ぶ夜店とオレンジの明かり。
浴衣を着たエースとルフィはその中を歩いていた。
足を止めた男が露骨にルフィを眺める。
頬を染めた女の子たちがエースを見てひそひそと会話を交わす。
やたらと周囲の注目を浴びているが、ルフィは全く気にしていないようだった。
目を輝かせてあちこちの屋台に駆け寄る。
「ルフィ、あんま先行くんじゃねェ」
「わかってるって」
さり気なく庇うようにしてエースは歩いた。

フランクフルトを頬張り、たこ焼きと焼きそばを平らげ、りんごアメを齧る。
真っ赤に染まる舌を見せ合って笑った。

長イスに座った二人はカキ氷をしゃくしゃくと食べていた。
「うめェなエース!」
きらきらと弾けるようなその笑顔。
エースが真顔になる。
甘くて柔らかいルフィの唇が動く。
「どした?」
伸ばしかけた手をはっとして止め、エースはその手を額に置いた。
「エース?」
ルフィが不思議そうに首を傾げる。
「・・何でもねェ」
ここは外。外。外。
エースが心の中で繰り返していたときだった。

「あのー、お2人だけ、ですか?」

浴衣を着た可愛らしい女の子たちだ。
ルフィはきょとりと瞬きした。
「見りゃわかんだろ?俺たちだけだ」
女の子たちの顔が輝く。
「よかったぁ。誰か待ってるのかなって。えっと、私たち」
「悪ィ」
最後まで聞かずにエースは立ち上がった。
「俺たちデートなんだ。他当たってくれ」
固まる女の子たちとルフィ。
「ルフィ行くぞ」
腕をとって立たせる。

人ごみの中を手をつないで歩いた。
ルフィはずっと俯いている。
歩きながらエースはルフィの顔を覗きこんだ。
少ない明かりの中でも、その顔が真っ赤になっていることがわかった。
ふわりと微笑むエース。
「もうすぐ花火だ。適当なトコで見ようぜ」
つないだ手を強く握り直す。

まばらな人影のところに座った。
やがて夜空に花火が上がる。
大きな音と煌く光。
2人は静かにキスをした。
ゆっくりと唇を離す。
互いの目を見つめて微笑み合った。


「ただいまでおかえり!」
「おう、ただいまでおかえり」
マンションに戻ってからも、ずっとルフィは上機嫌だった。
「エース、今日は俺も呑むぞ!」
珍しくエースと一緒に呑んだ。
ソファに並んで座り、缶ビールを手に取る2人。
だがルフィはあまり酒に強くない。
すぐに眠そうにあくびをして、隣のエースの膝に寝転んだ。
エースはルフィの柔らかな髪を撫でながら、空いた片手で缶ビールを飲んだ。

「なぁエース。人の気持ちっていつか消えるのか?」

酔っているのだろう。
ルフィの瞳は潤み、頬は赤く染まっている。
襲い掛かりたかったが、エースは何とか堪えた。
「いや、消えねェよ。終わらせたいってソイツが思うまではな」
酔っ払いのセリフにも真面目に答えを返す。
「じゃあ思い続ければ終わらねェんだな?」
エースはことりと缶を置いた。
優しくルフィの髪を撫でる。
「ああ、終わらねェよ」
ルフィはにこりと微笑んだ。
「ならいいんだ。俺はな、エースを想うキモチだけは失くしたくねェんだ」
エースは一瞬、呼吸を止めた。
俺と同じこと思ってんのかよ。
鼻の奥がつきりと痛む。
何があっても、ルフィを想う気持ちは変わらない。
絶対に失くしたくない。

「ジジイになっても同じこと言ってくれよ」

誤魔化すようにぐしゃぐしゃとルフィの柔らかい髪を乱した。
くすぐったそうにルフィが笑う。

「今度はさ、サボと行こうな・・・」
「ああ」
テーブルに手を伸ばし、リモコンで部屋の照明を落とした。
寝息をたてるルフィを静かに見下ろす。
乱れた髪を丁寧に直した。
ソファに凭れたエースは窓の外を見つめた。
深い色を湛えたその瞳を、見るものはいなかった。



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