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ふらふらするでもなく、ただ真っ直ぐに家に帰った。
寄っていく馴染みの場所があるわけでもない、だから直ぐに帰路にたった。
本当なら自由になった満足感を得るために何処へなりとでも足を向ける予定だったが、思わぬ出会いにもうこの町に足を運ばせるのは気が引けた。
嫌だった。
これ以上はもう勘弁だった。



扉を開けるとそこには彼奴がいた。
しっかり自分の事を待っていたのだ。



「おかえり、旦那」

「ただいま、佐助」

「随分と早かったね」

「逃げるとでも思ったか?」

「それはないと思った」

「そうか」



素っ気ないような会話も実は意味があったりする。
それは二人にしかわからない互いの機嫌の探り合いなのだ。
じっとただ見つめ合うだけだったが、先に行動を起こしたのは佐助だった。
伸ばされた両腕が背中を捉え、ぐっと抱き締めるように力が籠る。



「ご飯できてるから、食べようか」

「パンを買ってきてしまった……だからこれも食べる」

「いいよ、旦那大食いだし。てゆかお金は?足らなかったでしょ」

「……何やら後ろにいたおなごが払うてくれたのだ」

「ふーん」



それから会話は続かなかった。
佐助の顔が露になっている首筋へと寄せられる。
かかる息がくすぐったい、少々の我慢である。
すると突然肩に重みがのし掛かり、くぐもった声が肌越しに聞こえた。



「……腹が減った」

「わかった」



それを合図に、扉が閉まり鍵がかかる。
あぁ、気まぐれはもうおしまいか。
幸村はそっと目を閉じた。















* * *















立ち上がり腕を掴んだまま離そうとしない政宗に、愛は苛立ちを込めて胸を叩いた。
するとハタと気づいたのか慌てて手を話すと悪い、と謝る。



「どうしたの?突然取り乱したりして、政宗らしくないじゃない」

「あ……いや、すまねぇ」

「もしかして知り合い?」

「さぁな、名前聞いたか?」



がしがしと頭を掻きながらバツの悪そうな顔で聞く政宗に、愛は取り敢えず気にしないことにしあの時の事を思い出そうとしていた。



「幸村さん……っていったかしら?」

「っ!?」

「名字なのか名前なのかはわからないけど。同い年くらいで髪の毛が襟足だけ長くて結ってた。てゆかあの人学校とかないのかなぁ?」

「そいつ、どこに住んでるかわかるか!?」

「は?わかるわけないじゃない、初対面でそこまで話さないわ」

「だ、よな……でも駅前のコンビニってことはあの辺なのは確か、か」



そうブツブツなにやら独り言を呟く政宗に愛は不思議そうにし、次には眉間に皺を寄せる。
何故自分の会った相手にこんなに興味を持っているのか全く分からない。
いつも何にも興味のない政宗がこんなに食い付いてくる相手に何故か嫉妬する。



「なんでそんなに必死なのよ」

「愚問だ。俺はそいつに会うために生まれて、今まで生きてきたんだからな」



そう告げる真っ直ぐな目の政宗を、愛は手の届かない遥か向こうの人のような目で見つめていた。

瞳の中には暗い、影。

















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