長 b | ナノ



激しい戦火の中、唯一ただ一人の主はどんな中でも輝いて見えた。
まごうことなき紅蓮の炎は恐る者も多く近寄りがたし、されどもその美しさに皆跡形もなく焼き付くされると知っていて尚群がって行く。
それはまるで虫の如し。



「って言っても、俺様もその虫の一匹にすぎないんだけどね!」



振るう大型の手裏剣の刃に次々と首を跳ねられてゆく敵武将達は自分にとっても主にとってもただの邪魔者でしかなく、雑魚であるにはかわりはない。
飛び散る赤にニヤリと頬を歪めれば、自分の位置から少し離れた場所から業火が巻き上がった。
同時に昇る蒼き電流を見た後、自分が少し目を離した隙にどうやら主は一番厄介な者に対面したらしいことを知る。



「竜の旦那……か。チッ!今日は俺様の目の届かない所かよ!!」



苛立ちも隠った刃は普段の自分らしくない切り口で首を落としていった。
命乞いの声なんて今更だが聞こえやしない、聞こえるのは彼の人の魂の叫び。



「旦那……?」



ふと、突然に音が途絶えた。
聞こえる筈の震えが、どんなに離れていても聴こえていた魂の音がピタリと止んだのだ。
慌てて先ほど目を配らせた場所へ足を走らせる。
勿論襲いかかる敵も、立ちはだかる雑魚も全て凪ぎ払ってから。
俊足といわれた己の足が、今はとても遅く感じた。



忍びの目でなくても分かる距離、そこまで近づいて足を思わず止めそうになった。
それは紅蓮の鬼が、唯一の主が蒼き竜に喰われたところだったからだ。
突き立てた刃を抜き、ダラリと力なく下がる頭は喉を差出し持って行けと言わんばかりに竜に首を晒している。
それに一つ間を置いていたが、竜も未練を断ち切るように刀を振り上げた。

そんなこと許すものか。

構えたクナイは後を終われないよう毒を塗り、狙いを定めて突き刺した。
足はただただ地を蹴り主の躯を抱え上げる。
突然腕の中からいなくなった事実に、竜は怒りを己に叫びを主に訴えていた。
しかしそんなもの今の己には関係ない、ここでくたばる相手の顔を見たって主は戻ってこないのだ。



「旦那、真田の旦那っ!!」



焦る気を押さえ、この戦場から離れることをただ考えていた。
知らずの内に駆ける足音は増えていた。
気配からして自分の後を追ってきた配下の忍びであろう、一定の距離を保ちつつも決して離れることはない。
幾分か走り込み、気が付けば戦場から離れた森へと踏み込んでいた。
優秀な部下もいるこの状況ならこの辺りで大丈夫だろう。
力なくしなだれかかる主をそっと地に降ろし、改めて耳を済ます。



「旦那……アンタ酷い人だね。俺様を置いて逝くなんて、さ」



少しずつ冷たくなっている体を一度抱きしめてから、負担になっているだろう鎧を外していった。
普段からあまり防御に長けてはいなかった鎧だが、こうして改めてじっくり見ると傷だらけになり役割を果たしてはいたことを知る。
それらをすべて丁重に側へ置き、軽くなった主の体を再び抱え直した。



「俺らもお役目御免……ってか」



呟く己の声に周りに控えた忍び達は一瞬動揺を見せる。
揺れた空気に思わず苦笑する。
忍びの癖に真田隊はやはり心があるのだと。



「こっから先は給料外、付いてきたい奴だけついてきな」



そう言って走り出した足音に続いたのは、先ほどと同じ数の足音だった。



















世界の終わりを見ずにすむ方法







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -