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※ちょいグロ注意。











あの時始めて出会ってから、紅蓮の炎は竜の心を魅了していた。
熱き炎は霞む事なく燃え盛り、命の証を示している。
ただ、その業火は時折儚く目に映ることがあった。







燃え盛るそれは業火の如く、まるでその身をも焦がさんばかりの勢いで遥か遠く彼方からでも彼の者の場所がわかった。



「真田幸村ぁあああ!!」

「伊達政宗ぇえええ!!」



激しく刃が交差し、どちらも引くことのない命取りはすでにこの戦乱の世の名物になりつつあった。
飛び散る火花や血の臭いが更に二人を興奮へと誘う。
周りにはもう誰もいない、全て討死、転がる旗は両軍の物である。
少し離れた場所ではまだ小競り合いが続いているらしく、合戦の声が聞こえている。
二人にはどうせ聞こえてはいまいが。
刄も視線も心さえも、今は互いしか見えない。
昂る鼓動と血に制御が効かなくなったのか、傷だらけの体も何でもないかのように動き続けた。



「楽しいねぇ……やめられねぇな!」

「真に!しかしそろそろ……」

「決着、付けるか?」



構え直す六爪に二槍を掲げ互いに距離を取る。
両者刃には血が付き、滑る刄を振り切り軸足に力を入れた。
沈黙。
視線と熱だけが絡み合い他には何もない様な無の空間。

ジャリ……

どちらともつかない草履が砂利を擦る音が合図だった。
互いに決めた矛先へ、一振り。



「ぐぅ……ッ!」

「チッ……!」



先に膝を付いたのは、政宗だった。
幸村の槍は右腹部と左腿を貫いている。
蒼い鎧に赤が染み込み、黒い泉を作った。



「さすが……真田、幸村。やってくれるじゃ、ねぇの?」

「…………」



政宗が見上げるそこには、二本の己の足で立つ幸村の姿があった。
ただ左胸部には六爪の内の一本が突き刺さっていたが。



「貴殿には、言われとうありませぬ」

「Ha……違いねえ」



その言葉に再び立ち上がった政宗は幸村にゆっくりと近づき、突き刺さる己の刄の柄を手にする。
そこからはまだ、あまり出血は見られなかった。



「政宗殿、先に逝って……待っておりまする」

「すぐにでも、追い付いてやらぁ」

「それは少々困りまする」



そう苦笑する幸村の姿は、先程まで命を取り合っていた相手には見えなかった。
優しい目で、手で、政宗の頬を撫でている。



「直接触れられぬのが悔しいのですが」

「No problem.生まれ変わったら嫌ってくらい触れてやる」

「また出会える……でしょうか?」

「当たり前だ」



そう告げれば、突き刺さる刀など気にせぬかのように前に踏み込み幸村は政宗にひしりと抱き着いた。
触れ合う熱は、普段は己の方が低いというのに今は何故か幸村へ熱を与えているかに感じる。



「政宗殿……お慕いして、おります」

「I love you.」

「異国語は、わかりませ…ぬ」

「愛してる、幸村。この言葉は生涯アンタだけに捧げるよ」



その言葉を耳にし、幸村は満足したように微笑んだ。
それをしっかりと目に焼き付け、政宗は柄を握る手に力を込める。



「次は、平和な世で……政宗殿っ!」



呼ばれた名前に反応するように刀を一気に引き抜いた。
それと同時に吹き上がる血潮に、政宗の顔は真っ赤に染まる。
力の無くなった身体は、政宗の片腕だけでは支えられない程重かった。
それは恐らく鎧のせいかも知れないが、それだけ全身の力が抜けている……ということだ。
閉じられた瞳と唇は、もう二度と開かず政宗を求めることもない。
その喪失感に、心は震えた。
またすぐに会いに行く、次の世で会おう、そう約束した。
だからせめて亡骸は、首だけでも側にと血で染まる刀をもう一度幸村へと突き立てようとする。



「……何っ!?」



支えていた腕から躯が消えた。
一瞬にして掻き消えたそこには一枚の黒い羽しかない。



「あの猿っ!!」



彼に付き従う忍の仕業と判るや否や、体中に怒りと痺れが走る。
主の亡骸を抱え、あの忍は何処へいくのか。
優秀過ぎるあれに連れ去られては自分にはもう追いかけることも出来ない。
そしてこの体の痺れ、肩に刺さったクナイを見る限り薬でも塗っていたのだろう、もう身体は言うことを効かず地へと倒れるのみ。



「幸村……ッ!!」



遠くから聞こえる自分の従者の制止の声が耳に響く。
それでも体を這うようにし、宛も分からぬ幸村の元へ手を伸ばす。
しかしすぐに訪れた疲労感に意識はプツリと途切れた。













片目の竜は、それから五日後自室で目を覚ます事となる。
ただじっと天井を見つめるだけだった瞳。
しかしその時無い筈の右目から涙が流れていたのを知るのは、竜の右目と呼ばれる片倉だけだった。













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