香
こんなに簡単にたどり着けるだなんて思わなかった。
正直はぐらかされたりだとか、拒まれたりするもんだと決めつけていたからこうも上手く事が運ぶと警戒してしまう。
取り敢えず買い物を済ませたいと言った佐助を外で待ち、落ち着かない気を沈めるために煙草を取り出した。
年齢的な事を考えれば吸ってはいけないのだが、今の時代にそんな事を煩くいう馬鹿はいない。
愛もそんな政宗の行為に文句は言わないし、言うつもりもないため見て見ぬフリをした。
しかし、煙草を口に付けようとしたとき突然腕を掴まれる。
掴んだのは佐助だった。
「煙草、幸村が嫌がるからやめてくれる?」
「……なんだよ、相変わらずオカンだなテメェ」
「幸村が嫌がることして欲しくないだけだよ」
「Ah〜?でも俺が煙管咥えてても一度も嫌がったことなかったぜ」
「それは我慢してるだけなの、いいから止めてくんない?臭い付くから」
もぎ取るようにして煙草を奪った佐助は、ついて来なと言うとそれから無言で歩き始めた。
それほど遠くない道のりを歩くと、周りとは一風変わった西洋風の一軒家が見えた。
二階建てのバルコニー付き、白い壁は何よりも美しく周りを寄せ付けない威圧感を何故か放っている。
二人の性格を考えればてっきり日本家屋に住んでいると思い込んでいた政宗は少し拍子抜けをした。
「昔はアンタが想像してるような家に住んでたんだけど、燃えちゃったんだよ」
まるで政宗の心を読むかのような言葉にジロリと瞳を移すと、特にこちらを気にする風でもなく佐助は鍵を開けながら淡々と答えた。
「幸村ってば、今のご時世もあんなしゃべり方でしょ?よく間違われるんだ」
「成る程、そう言えば幸村さんって今時古風なしゃべり方ですよね」
「そ。昔からあれだけは直んないんだよね……あ、もしかして君が幸村のパン買ってくれた子?」
「あ、はい……田村愛って言います」
「田村愛さん……ね。俺は猿飛佐助、よろしく」
「はい!」
愛に向けられる佐助の笑顔は、昔良く戦場で見られた飄々とした捉えどころのないものだ。
当時はその忍びらしからぬ風貌と態度に驚きを隠せなかったが、今思えば新しい時代に溶け込める一番進化した人間だったのかもしれない。
互いに挨拶をし終わった佐助は扉に手をかける。
しかし突然ピタリと動きを止め先程の笑みが嘘のように細められた。
「……が………る」
「Ah?」
「血の臭いがする」
それだけ言うと突然佐助は家の中へと駆け出した。
その動きは昔の彼を思い出させるくらい俊敏で目で追えなくなる。
「ちょ、オイ!」
「佐助さん、どうしたんだろ」
「……さぁな。取り敢えずここで突っ立ってるのもなんだ、中に入るぞ」
「うん」
挿しっぱなしの部屋の鍵を引き抜き、佐助を追って中へ進む。
家の中は薄暗くて、今まで人が住んでいたとは思えないほど殺風景だった。
続
またもや幸村お休みターンでした。
つ、次はね、うん(汗)