短 b | ナノ
息を呑んで

佐弁


静寂の中では誰もが息を殺し、その中に溶け込もうとする。
それはその中で自分が異端にならない術であり、またその静けさが心地の良いものであるからだ。
もしここで音を鳴らすものならば、今までのこの神経の研ぎ澄まされた感覚を無にしてしまう。
慎重に、慎重に。
集中している人間の邪魔をしないように細心の注意をはらって、息をのみ見つめる。



カタン……



一つの物音が集中を途切れさせた。
それはこの静寂の中心になっている人間の出した音であり、この緊張した空間の終わりを示していた。
思わず止めてしまっていた息を再び吐き出し呼吸を始める。
そんな自分にくるりと向かうと、主は満面の笑みを浮かべ声を張り上げて言った。



「佐助、できたぞ!」



白い紙を堂々と掲げ、黒い墨で書かれた文字をこちらへと見せつける。



「弁丸さま上手!上手ですよぉあああっ!!」

「まことか!」

「はい、もうぶふふっ」

「佐助!?どうしたのだ、血が」

「弁丸様、こちらへ」

「才蔵!佐助が血を」

「奴は暫く放っておいて下さい」

「弁丸さまの、直筆ぶふっ」



主が書き上げた書を手に鼻血を噴き出す忍を、他の忍達は羨ましいという感情を持ちつつも呆れた表情で見つめる。
これがかの有名な真田忍軍だと誰が思うだろうか?
申し訳ないが誰もわからないしわかりたくないだろう。



「次は才蔵にも書いてやるぞ!」



有り難くも勿体ない言葉に、次の犠牲者霧隠才蔵は涙を流しながら半紙を握り締める姿が、この後すぐに見られたという。


















息を呑んで

(貴方をずっと見守ります)
















「才蔵!?しっかりしろ才蔵!誰かぁあああ!!」












END


真田忍軍は皆弁丸命なんだよ!
例え紙切れ一枚でも嬉しいんだぞ☆
そんな話←


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