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君の幻

佐→→→→→弁




この屋敷の忍びは朝がとても早い。
そして年の始めは嵐のような忙しさであった。



「おせちの準備は前日からしてあるし、お雑煮もあと餅煮るだけ。でー後は」



忍らしからぬ仕事内容に普通の人間ならば驚く事だろうが、残念ながらこの家ではそれが普通だった。
後は主の弁丸を起こしにいくだけだと、割烹着を脱ぎ足を向けたのは未だ主が眠る部屋。
なんの物音もしないところを見ると、まだまだ夢の中なようだ。
取り敢えずまだ起こさないようにそっと襖を開け忍び込む。
毎朝恒例の佐助による弁丸の寝顔観察は、新年早々から欠かすことなく行われた。



「って、あれ?」



布団はもっこりとふくらんでおり、いつものように顔を伺うことができない。
ただ気配はここからするので、この膨らみは弁丸で間違いはないのだ。
どうやら隠れている……ようだ。



(んー……寝顔が見れなかったのは残念なんだけど、弁丸様の悪戯計画も潰したくないよね。んじゃま、見つからないフリでもしますか)



布団に向かう筈の足を止め、困ったようなフリをしながら部屋の中を歩き回る。



「あれー?弁丸様どこいっちゃったのかなぁー」



その声を聞くと、後ろでもそもそと動く気配がした。
そのまま背を向け、佐助は探すフリを続けていると足元にぼすんと衝撃が訪れる

その気配と温もりに顔が緩んだ。



「さしゅけー」

「弁丸様!?もー、どこにいらしてたんですか」



さも驚いたような声を上げて、後ろの温もりに手を回し抱き上げる。
するとあの愛らしい顔がこちらに満面の笑みを向けているではないか。



「弁丸様、あけましておめで……!?」



新年の挨拶をと脇に手を入れて、己の目線の抱き上げると目に止まった黄色い物体。



「あけましておめでとうでごじゃる。がぉー!」



ぴくぴくと頭の上で動くのは黄色と黒のしましまの耳。
昨日まではなかった物に一時的に思考が停止する。



「がぉー!!」



ぱたぱたと見え隠れしては揺れる黄色い尻尾に、心が全て持っていかれる。



「今年もよろしくでごじゃる!」



がぉーがぉーと鳴き続け、虎柄の耳と尻尾のついた主は佐助に抱きつき喉をゴロゴロと鳴らしていた。



「弁丸様可愛過ぎっ!!」



そう叫ぶと鼻から大量の血を噴射し、荒い呼吸で弁丸を抱き締める。
その時の佐助の形相は、もうそのまま犯罪でも起こすのではないかと思われるもので、慌てて残りの十勇士が止めに入った。



「弁丸様ハァハァ弁丸様ハァハァハァハァハァハァ///」

「さ、さしゅけが怖いでごじゃるっ」



あまりにも怯えた弁丸にまた興奮を覚えた佐助は再び飛びかかろうとした。
が、残念ながら十蔵に銃で撃ち抜かれ取り敢えず未遂で済む。



「弁丸、様……萌え」



ばたんと倒れるまで鬱陶しい事を呟いた佐助は、あぁそういえば今年は寅年だったな……とやっと思い出していた。


















君の幻

(これで目が覚めても虎っ子だったら…………うん、そうしよう)













END



うん、そうしよう…ってのは何しようとしているのかは皆様のご想像にお任せという形で(笑)

それでは今年も何とぞお願いいたします。


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