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何もかもが嫌なんだ


現代パロエール。
ヤンデレ注意報。








生まれてからずっと兄しか信じられなかった。
父も母も知らない。祖父はいたけれど顔さえもう思い出せない。一人ぼっちの自分に与えられた唯一は、兄のエースだけだった。
ずっと側にいて自分を愛してくれた。だから兄さえいれば他は何もいらなかった。
兄も自分を一番だと言ってくれた。何よりもかけがえのない存在で愛しているのだと毎夜自分を抱きしめて眠る兄は語っていた。

なのに。

兄に女の影を見た。
最近帰りが遅いと思ったら、まさかの事態が起こっていた。たまたま部屋の窓から見下ろした玄関先で、兄が誰かを抱きしめていたのだ。
勿論そんなもの見ていられなくてすぐに目を逸らした。つい昨晩付けられた赤い印が、じくじくと疼く。



「ひどい……ひどい酷いっ!」



兄に裏切られたという思いが頭の中を駆け巡る。
いつから兄は自分以外を一番にしてしまったのだろうか。いつだって側にいたのは自分だった。誰よりも共に過ごす時間は長いと思っていた。誰よりも兄に愛されていると思っていた。



「エース、エース……」



追いていかないで。一人にしないで。
昨日だって自分が一番だって言ってたではないか。他には何もいらないと言っていたではないか。甘く優しく、愛していると言ってくれたではないか。



「騙してたの……俺を好きだって言っておきながら、本当は他の女のことを考えてたのっ!?」



ガンガン、ズキズキと頭痛が酷くなってくる。抱えた頭を兄と共に眠りについたベッドへ押し付けなんとか痛みを堪えようとした。落ち着こうと深く息を吸い込んだ時、鼻孔に広がる兄の匂いに目頭が熱くなった。
こんなにも自分は兄を必要としているのに、こんなにも自分は兄を愛しているのに、何故兄はわかってくれない……そして伝わらないのだろう。
伝え方が足りなかっただろうか。もっと兄を求めればよかったのだろうか。それでももう兄を引き止められない程、兄は相手を好いているのだろうか?



「それとも、俺のこと……飽きちゃったのかな」



考えれば考えるほど悪い方へと考えが及ぶ。いつしか自分は本当は嫌われていたのではないか、やら弟だから仕方なくではないかやら思い込むようになった。
兄を疑ったりはしたくない。でも一度脳裏に焼き付いた思考はこびりついて離れないのだ。
あまつさえ、あの女はもしかしたらこちらに気づいていてわざと見せ付けるためにしたのではないかなどと考えるようになる始末。
こんな嫉妬で醜い自分なんか、きっと兄は。



「………ルフィ?」



突然聞こえた兄の声に、思わずハッとなり顔を上げる。
ドアからこちらを伺うように、顔を少しだけ覗かせ心配そうな表情を浮かべる兄の姿。
どうやら考え込み過ぎて兄が帰ったことすら気がつかなかったようだった。



「ルフィ、大丈夫か?どこか具合でも悪いか?」



部屋に自分がいるのを確認すると、兄は少し足早に近づいてベッドにうずくまる姿に心配したのかヨシヨシと背中を摩られた。温かくて優しい大きな手が荒れて暗くなった心を晴れやかにする。
これ以上兄に心配をかけてはいけない、そう考え今は笑みを作ることに専念した。



「ううん、大丈夫」

「本当か?兄ちゃん何度も声かけたのに返事がないから心配したぞ」

「ごめん。ちょっと考え事してた」

「悩み事か?兄ちゃんが相談に乗るから話してみろ」

「うん。でももう解決したから大丈夫。ありがとう、エース」



素直にそう言えばまだ不安だとばかりな顔の兄にそっと手を添え額に口づけをする。
これは小さな頃からの習慣、本当に大丈夫だと知らせる合図だ。



「エース」

「……そうか、ならいいんだ」



安心したのか、兄はぎゅっと包み込むように抱きしめた。厚い胸板と大好きな兄の匂いに心が落ち着いていくのがわかる。伝わる鼓動が安心感を与えてくれて、この腕に今まで守られてきたのだと喜びも生まれた。
あぁ、本当の意味で兄が自分だけの兄になればと今生で何度思ったことか。
兄の背に回した自分の腕をじっと見つめ、今はこのどす黒い想いを押し込め兄の安らぎに身を委ねた。













何もかもが嫌なんだ

(兄と自分以外全て、)




















ヤンデレルフィさんですみません。


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