8
リビングを過ぎ、部屋に入ると目を覚ましたルフィが目に入る。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞼をじっと見つめた。
睫毛の長さはあんまり長くないけれど、人より多いそれが風を起こすんじゃないかってくらい激しく動く。
「……おは、よ」
昨日の今日だから、喉がカラカラに渇いて上手く言葉を発っせなかった。
恐る恐る手を伸ばし、頬を指でなぞる。
泣き腫らした後を指の腹で感じて、胸が痛んだ。
じっと見上げる双瞳が、隠しきれない罪悪感を引きずり出すのではないかと構えてしまう。
焦点がまだあまり定まらないのか、ゆっくりと繰り返される瞬き。
ああいっそ、もう一度眠ってくれても構わないのにと目元を掌で覆った。
「どこ、行ってたんだ」
呟くような声にビクリと体を揺らしてしまう。
別にやましいことなんてないのに、これではまるでありますと言っているようだ。
「サッチ達に、二次会誘われちまって……ごめん、連絡遅くなっ」
「ちがう、今」
目を覆う手に己のそれを合わせ再び問われた言葉。
それに今度は己が瞬きを繰り返す番だった。
「おきたら、エースいないから。また、どっか行っちまったのかと思って」
添えた掌がルフィの温かい手に覆われると、朝の冷水で冷えた指がじんじんと熱を戻していった。
心地好い温もりは、心細いとでもいうように普段とは全く違ったか細い声で言う。
「顔、洗ってきただけだよ」
「ほんとに?おれ、あんなメールしたから……エース帰って来ないんじゃないかって、こわくて」
「ルフィがいるところが俺の帰る場所だ。何があっても、俺はここに帰ってくる」
例えお前が望まなくても。
そう答えると、ルフィの口元にゆっくりと笑みが作られた。
「エース怒ってないか?」
「寧ろ俺は怒られる立場だと思うんだけど?」
「でもエース、ちょっと乱暴だった」
何がなんて聞かなくてもわかる。
残念ながらしっかり覚えているようだ。
なんだか恥ずかしいような。
でも、やっぱり。
「なぁエース、手ェどけてくれよ!」
「それは無理な相談だ」
もう少し、合わせられる顔になるまで待ってくれ。
初めて嬉しくて泣いた
(お前のそんな所に救われて俺は、)