題 | ナノ
カメリア


(エース視点)












あれから君を夢に見なくなった。

少し寂しかったけれど、あんな夢なら見ないほうがましだ。

ただ、あの赤が瞼の裏の君にこびりついて離れない。



















赤は、昔からあまり好きではなかった。
痛い色、辛い色、何故かそんな思い出しかないからだ。
それでも、たった一人の弟に出会ってからは得に意識することもなくなった。
時間ってやつは人を変えるなんて言ったりするが、人を変えられるのは人しかいないと思う。
時間なんて無情なもので、解決なんかしてくれないのだ。
それに比べ、良くも悪くも弟は俺を変えていった。
幼少の時に共に暮らした年月は長いようで短かったが、少なくとも俺にとってはあの頃が一番充実していたと思う。
だから、あの頃兄弟と交わした約束は絶対だった。
唯一、違えてはならないものだった。
それなのに、どうだろう。
俺は、今。



「ごめんな……」



あの時の事ははっきりとは覚えている。
忘れるはずなんてない。


「ごめんなぁ……」



目の前にいた筈の大将赤犬が、矛先を弟に変えて。
一瞬だった。
動かない赤、熱くたぎる赤、そして流れ出た赤。
動けと願った体は、ピクリとも動かなくて。
あぁ、夢であれ、そう何度も願った。
体は軽い音を立てて地面に崩れ落ちた。
まるでスローモーションの様に倒れる姿に重い体を引きずり駆け出して、赤に塗れて溺れる弟に必死に声をかける。
薄く開かれた目は、それでも俺を捕らえて離さなかった。
大丈夫、生きている、弟はまだ、生きている。
軽い体を抱き上げた感触はまだ腕に残って新しい。
拭い去った筈の赤は映像となり、瞼にこびりついて離れない。
浅く呼吸を繰り返し必死に生きようとする弟を見て、初めて神というものに頭を垂れたのを思い出す。
あぁどうか、このたった一つの希望を奪わないでくれと。
必死に駆け出した体を受け入れた船は、少し耳にしたことのある海賊船だった。
医者だと名乗る男は弟を見ると慌てた表情で乗れと言い放ち、すぐさま手術が始まった。
その場には勿論居合わせた。
今にも消えてしまいそうな弟の姿に、縋り付きたくなった。
俺を一人にしないでくれ、と。



「ルフィ……」



昔から何度も呼んだのに、愛しくて恋しくて懐かしくて堪らない名前。
俺は一人の兄としてお前との約束を守って、一人の男としてお前を守ってやれなかった。
俺はお前に死なないと約束したのだ。
そうだ、約束したのはお前という存在がいるからなのに。
サボに誓ったんだ、お前を守ると。
だからまだ、俺に守らせてくれと。
必死に呼び掛けた。



「俺は出来の悪い兄ちゃんだったなぁ」



それでも現実は残酷で、奇跡なんて物語の中だけのもので。
俺を置いて、弟はもう一人の兄に会いに行ってしまった。
安らかに、眠るように。
呼吸器が邪魔して最後の言葉は聞けなかった。
ただ、最後の満足そうに笑う顔が忘れられない。
傷だらけで巻かれた包帯が痛々しくて、白に浮き出るのを止めない赤が、まだ弟は生きているのではないかと錯覚させた。

それ以来、また、赤は嫌いな色になった。



「エース」



後ろから聞こえた声に、無意識に頬を伝っていた涙に気付く。
深くハットを被り直し、顔を見ずともわかる相手に言葉を投げた。



「すまねぇな、こんな立派なの立ててもらって」

「いや……ただ、俺がもう少し早く」

「なあシャンクス!」



言葉を遮るように叫ぶよ。



「俺は赤が嫌いだ」



お前が好きな色だけれど。



「赤は俺の大事なものを奪う」



あの赤に惹かれ海賊になった弟よ。



「だから、嫌いだ。でも」



もしまだこの情けない愚兄の側にいてくれるなら。



「赤は俺に大事なものを与えてもくれた」



どうか最後まで聞いてほしい。



「ルフィに出会わせてくれた」



ヒリヒリと、肩と頬の痛みは増していった。
全く、我が弟ながらいい仲間を見つけたものだ。
皆お前のために嘆いてくれている。
今だ耳に残る懐かしい旋律は、昔何度も小さい弟に歌ってやった唄に良く似ていた。
手に握った弟が最後まで離さなかった紙切れが、ぱさぱさと音を立てる。
優しく吹き抜ける風に乗せて、あの時伝えられなかった言葉を君に送ろう。



「愛してくれて、ありがとう」



沢山の草花が咲くこの場所でただ一つ目についた花。
君に良く似合うこの色の花は、なんというのだろう。



















カメリア

(大切な人、私は貴方と共にいるよ)














私たちは今、上手に笑えていますか?




END













ここまでお付き合いありがとうございました!
もきゅ様から頂いたリクエストが勝手に盛り上がって少し長くなりましてすみません。
そして駄目文故、消化しきれていない感が漂っております……orz
ルフィの最後をもうちょっと具体的にしっかり書こうか悩んだのですが、結局エースの思い出という形でぼんやり書くことにしました。
ちゃんとエースを助けてから、とかも考えたのですがやっぱり赤犬の場面が一番の分かれ目だと思ったので。
もきゅ様に限りお持ち帰り、また返品可でございますのでっ
書きなおしも万事受け付けておりますっ
それでは素敵なリクエストありがとうございました!





えと、あとどうでもいい話をしますと、一応お話の軸は赤い花で統一しております。
それぞれの花言葉が三人からルフィへみたいな感じだといいなーみたいな。
曼珠沙華→想うはあなた一人
Anemone→あなたを信じて待つ
カメリア→誇り、完璧な魅力
曼珠沙華は彼岸花の別名で、カメリアは椿の英名になります。
でもカメリアの場合は、天野月子さんの『カメリア』って曲がモチーフになっている感じです。
もしお時間あれば是非是非聴いてみてください。


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