長 | ナノ
06





学業は、本分である。
が、さして重要ではないと思う。
この国は学歴社会だというが、それは自分がどこかの群れに属している場合であって自分が独立したものを立ち上げれば関係ないのではないか。
確かに学歴は信頼に繋がるかも知れない。
平等に一目でわかる基準というのは必要だ。
学歴はまさにそのものさしではないか。
しかしいくら名のある学校を出ていても、その名前を背負える人間なんて一握りだ。
結局世の中最終的に求められるのは結果だ。
過程なんて、言い訳にしかならない。
だから大学を出たら、自分で仕事を作ろうと思う。
生憎資金に困ることはないし、学力には自信がある。
今通っている大学もそこそこだが、本来ならば一流の大学に通ってもおかしくない成績だ。
なのに何故今の場所に落ち着いているか。
まず通学時間が短い。
徒歩で通えるとはありがたいものだ。
二人暮らしの家で家事ができるのは自分しかいないため、より時間が取れるのはありがたい。
次に今以上を求められない。
一流の大学になど行ってしまえば一流の企業に勤めるための一流の学業が待っているだろう。
そんな所に行ってしまえばただでさえ授業で奪われる自分の時間をより無くす羽目になるではないか。
それに比べればそこそことはなんと気楽なのだろう。
最後にこの大学には近所の人間が多くいること。
自分達を知る人間ならば、おいそれと自分に関わることなんてしない。
誰かとつるむなんて御免だ。
何はともあれ、弟のために時間を使う。
これが叶えられれば他はどうでも良かった。



「後二年か……」



この生活を終えるまで後二年。
焦るわけではないが、長く感じる年月に溜息を吐いた。
下準備は大事のため手を抜くなんて出来ない。
今我慢すれば、後で幸せと充実が待っている。
目の前の物に捕われず、先を見ていかねば上手な生き方にはならないのだ。



「日々精進なり、てな」



歩むスピードを緩め、もう目と鼻の先にある我が家を見つめた。
この家が自分達の本当の住家になったのは、七年前。
これまでは自分の予定通り、そしてこれからも予定と計画は狂うことはないのだ。
思わず喉まで笑いが込み上げてきた。
今なら大声で叫んでもおかしくないほど気分は爽快だ。
と、ふと見上げた二階窓からカーテンがたなびくのが見えた。
しかしいつもの影はそこにはない。
それに思わず息を呑み急いで自宅の鍵を開ける。
相変わらず自分が綺麗にした玄関。
好んで白で統一した室内に、探していた大切なものが佇む。



「おかえりなさい、エース」



危うい足どりでこちらに向かう弟を、思わず靴を脱ぐことを忘れ駆け出し抱きしめた。
息が、止まるかと思った。



「エース、エースどうした?すごい汗だ」

「悪い、急いで帰って来たからさ」

「そっか、じゃあすぐに風呂だな」

「いや……まだ少しこのままがいい」

「ん、わかった」



きつく抱きしめる自分に、17歳の男子にしては頼りない腕が背中に回される。
暖かい、生きている、ちゃんとこの腕の中に、弟は。



そうして今日も、何よりも純白な君に溺れていく。










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