長 | ナノ
03





眩しいくらいの黄金は、決まった時間に現れる。
久しぶりに世界を見た目に入った兄の漆黒の次に脳に記憶された黄金に、少なからず興味を引かれていた。
今日もまた兄がカーテンを開きこちらに背を向けるタイミングを見計らったかのように黄金は現れた。



「おはようルフィ。調子の悪いところはないか?」

「うん、大丈夫だ」



優しく髪を撫でてくれる兄。
その感覚が心地好くて目を細めると、兄は自分を抱き上げる。
落ちないように首に腕を回ししっかりと捕まってから、また窓の外を見つめると黄金はこちらに向かい手を振っていた。
それにこっそり手を振り返すのがなぜか最近の習慣になっている。
なんだか兄に内緒という行為が何故か楽しかったからだ。
そのまま自分は朝食を済ませるために兄に一階へ運ばれてしまうから、黄金がそのあとどうしているかなんてわからないが恐らく学校にでも向かったのだろう。
大丈夫、また夕日が消えかけた頃彼はまた現れる。
だからそれまでさようなら。












兄に運ばれて着いたリビングには既に机の上に朝食が準備されていた。
あまり動かないためそんなに食事を取る必要はないのだが、体の事を考えて作ってくれた兄の料理を無駄にするわけにもいかず兄がいいと言うまで口にしていた。
別にそれが苦痛と感じたことはない。
自分がもう無理だと感じれば兄も無理強いはしないわけだし、何より自分の好む味ばかりで拒む理由もないのだ。
ただ、視力を失っていた時間の習慣だけは兄に申し訳なさを覚える。
目の見えなかった自分のために料理を食べさせてくれたり、零したものを拭ってくれたり。
食事以外もそうだ。
着替えも手伝ってくれる、風呂だってトイレだって兄は自分を連れて行ってくれたし手伝ってくれた。
つくづく兄がいないと生きていけない自分がここには存在しているのだと実感した。
だから最近七年間見えなかった両目に視力が戻った事で、やっと兄に迷惑をかけずにすむと思った。
それでも兄は自分の世話をする。
それが自分の役目であり、幸せなんだといい甘やかしてくれるのだ。
それに甘えている自分もどうかと思うが、兄が代わりに『欲しいもの』をくれればいいというので、そんなものでよければいくらでもと兄の希望に答えてきた。
それが、俺達兄弟の『あたりまえ』だったからだ。
そんな当たり前の日常の中、自分に食事を食べさせながら兄は思い出したかのようにこう言った。



「今日から先生は週三日で来るからな」



先生とは、自分の目を治してくれた主治医の事だ。
先生は自分の視力が無くなった頃からの担当医であり、七年かけて視力を回復させてくれた大変恩のある人である。
また、先生には医者になるため勉強しているという息子がいた。
確か兄と同い年くらいだったろうか。
先生が問診するときは必ず一緒に来ており、何もすることがなくて暇な自分の話し相手になってくれたりもした。
そういう事も含め、先生には色々お世話になっている。



「毎週月曜日、火曜日、木曜日で来てくれるらしいから。今日はちゃんとお礼言うんだぞ?」

「うん、わかってるよ」



目が見えるようになったらお礼をしなくては、と考えた矢先の先生の訪問。
心から嬉しく思っていた。
この見えるようになった両目で先生を見据えて、きちんとお礼を言うのだ。



「さぁて、兄ちゃんは学校に行ってくるから。ルフィは先生が来るまで部屋で大人しくしてろよ?」

「うん!」



立ち上がった兄に抱き上げられ、二階の自室へ向かう。
兄が言うには先生はお昼前には来てくれるそうだ。
さぁ次は何色が自分の目に記憶されるのだろうか。
今からワクワクして落ち着かない。



「早く来ないかな」




兄の腕の中で次の色を想像しながら、ルフィはそっと目を閉じた。










続。




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