長 | ナノ
02






こっちに引越したのは今から半年程前だった。
料理の勉強がしたくて両親の許可をもらってから、目的の専門学校の近くの高校に転校した。
専門学校に行くためのお金も生活費も極力貰わないようにし、自分で生活をやりくりしている。
幸いにも知り合いがレストランを開いており、そこに見習として働くこととなった。
しかしアルバイトをしているといっても学費生活費でほぼなくなってしまう。
それでは自分なりに料理の勉強をすることが出来ない。
そのため、たまたまこの町に住んでいた幼なじみ(というかただの腐れ縁)とルームシェアをすることなった。
互いに不本意なところもあるが、そこは妥協するべきところだと理解している。
なんだかんだで料理は自分の勉強も兼ねているのもあり苦ではないし、意外と几帳面なのか掃除だけは同居人が行ってくれた。
そんな生活をしている中のことである。
学校へ行く途中の道程に、とても大きな一軒家があった。
壁も屋根も門さえも真っ白な二階建ての家は、存在感を与えながらもそこに人が住んでいることを感じさせなかった。
近所の人の話では昔からこの土地に住んでいる地主の家だそうだ。
しかし誰もこの家の住人と話をしたことはないらしく、また向こうもこちらと交流をもとうとしないらしかった。
今住んでいるのは跡取りとなった兄弟だけらしい。
両親はずいぶん前に事故で他界、しばらくは祖父が保護者となっていたらしいがその祖父も多忙で殆ど家には帰ることがなくこちらも随分前に仕事先で亡くなったそうだ。
話を聞くとなんと不幸な境遇な兄弟だと思う。
自分がその立場だったら、辛くて生きていくことに迷うだろう。
そんな感情がぐるぐると渦巻く日々の中で、稀に噂の白い家から青年が出入りしているのを見た。
少し癖がある黒い髪に、凛とした黒い瞳。
今でいう所謂イケメンといわれる顔立ちにその黒はよく映えていた。
その日はたまたま青年を見かけたので、勇気を出して話し掛ける事にした。
何故かは理由はない、ただあの大きな白の館に興味があっただけだと感じる。



「おはようございます」

「あ、どうも」

「大きくて綺麗なお家ですね。最近引っ越してきたのでびっくりしました」

「あぁ……なら家にあまり関わらない方がいいですよ。Dの血筋は汚れているらしいんで」

「え……それはどういう意味で」

「まぁ血筋というより、彼等は俺達兄弟が汚れていると思っているようですがね」

「あの……」

「じゃ、そういうわけで」



ラフな恰好から察するにバイト……いや、手にしている透明なクリアケースに教科書らしきものが見えたので恐らく大学にでも向かうのだろう。
正確な年齢はわからないが、少なくとも自分とそんなに歳が離れていない事がわかった。
遠ざかって行く背中を見つめながら、無意識にタバコを口にする。



「なるほどねぇ……要するに昔からずっとこの土地にいる彼らは何でか知らないが地元の人間から怨みでもかったのか」



今の時代まで引きずるとはそれはまた面倒でしつこい怨みだ。 それにしても彼は『兄弟』と口走っていた。
しかし自分はこの家から出てくるのを彼しか見たことがない。
はて、これはどういうことだろうかと白い家を見上げた。



「ん?」



二階には三つの窓があった。
内二つは雨戸が閉められ中を伺うことは出来なかった。
しかし一番左の窓だけは、何故か薄いカーテンが一枚存在しているだけだった。
そこをじっと見つめると、中に影が見える。
人の影であろうそれは、どうやらこちらを見ているようだった。



「気づくか……?」



手を振ってみるが無反応。
気づいていないのかはたまた見ず知らずの人間に手なぞ振られて振りかえすわけがないのか。
そう思った瞬間突然風が吹き荒れてカーテンがめくれた。
こちらを向いているのは、先程の青年と同じような漆黒の髪、しかし線は細くあまり外には出ないタイプだろう。
あまりに印象の違う兄弟に目を見張ったが、何よりその容姿に目を惹かれた。
白い布が巻かれた目元は怪我かはたまた失明か。
どちらかなんてわからないが、今現在は見えていないのだろう。
白い肌に巻かれた白い包帯が病的に映り、危うさをかもしだしている。
はかなげで守ってあげたくなるようなで少年と青年の間くらいの年齢だろう、そんな風に感じた。



「……何考えてんだ、俺」



たった一瞬でどれだけ考えているんだ、しかも男相手に。
そう考え窓から視線を外し自分も学校へ足を向ける。
口にしたタバコは、いつの間にか殆どが灰になっていた。




続。



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