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01





おはよう、俺の白い花。









鳥の声が聞こえる。
窓を誰かが開けたのだろう、そうでなければこの部屋は無音のままだ。
耳に入る音に身を起し、胸一杯に空気を吸い込んだ。
庭に桜でも咲いたのだろうか、花を霞める良い香りに瞳を閉じた。
否、瞳は始めから閉じられている。



「目が覚めたか?」



後ろからの声に振返ればクスリと笑う声が聞えた。
それから風が動き、こちらへ近付いて来るのを感じる。
そっと近付く気配と匂いは、確かに兄のものだった。
頬の横をすり抜けた腕はそのまま頭部に巻かれていた布を外す。
しゅるしゅると落ちた布は膝の上に広がり、開いた瞳は一番に目の前の兄を捕らえる。
暗かった世界は一瞬にして光を得、突然の光に思わず瞼を閉じてしまった。



「大丈夫、ゆっくり開いてごらん」



指の腹で優しく瞼を撫でられ、恐る恐る再度瞳を開いた。
先に映った兄の顔は、自分が最後に見た姿よりも随分と大人になっており、成長している姿に目を見張る。
少し癖のある黒髪が風にサラサラと靡く姿が、健康的な色をし筋肉で鍛えられた体が、端麗な顔に埋め込まれ黒石が、全てが眩しかった。



「見えるか?」



そう心配そうにする兄に向かってコクリて頷きながら、風に揺れる髪に触れて見る。



「エース……?」



名前を呼びながら確かめるように何度も梳く。
それに優しく笑みを浮かべると、兄エースは嬉しそうに弟の名を呼んだ。



「おはよう、ルフィ」



その名は彼にとって、何よりも重要なものである。
代わりなんてない、彼が今生きている意味でもある名だ。
慈しみ、愛で、守って来た弟がようやく目を覚ました事に歓喜したエースは思い切りルフィを抱き締める。
キシリとベッドが軋む音と、ルフィの声が聞えたが気になんてしない。
ただ待ちに待ったこの瞬間をエースは胸一杯に感じたいのだ。



「約束守れたな」

「うん。よかった」

「『目が見えるようになったら、最初にエースの顔が見たい』か」

「だって、俺にはエースしかいない」

「まったく、可愛い事言ってくれたものんだ」



そう言いつつも嬉しそうに声を揺らすエースに、ルフィは照れながらも笑みを零す。
その時ふと視線を窓へと移すと、一人の青年がこちらを見つめているのが目に入った。
光を浴びてキラキラ光る髪は、まるで彼自身が太陽であるかのようだ。
空の様に青い瞳は真直ぐにこちらを見ている。
服装は制服だろう。
昔ルフィが兄の物を触った時のイメージと同じ衣服をしていた。
こちらもじっと見つめていると、何を思ったのか彼はこちらに手を振ってくる。
それに思わず手を振り返すと、エースが面を上げどうしたと訪ねてきた。
それになんでもないと返し、視線をまた窓の外へと移した。
しかしそこには彼の姿はない。



「ルフィ、朝食にしようか」



その声に我に返り、未だ抱き付いて離れない兄に頷くと今度こそ完全に窓の外から視線を逸らしたのだった。















続。



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