長 | ナノ
さん。





葬儀といっても、この村では告別式やら通夜やら面倒なことは行われないためすぐに埋葬をした後は各々帰宅というのが当たり前だった。
遺族は埋葬後故人を偲び、最後を迎えた場所に1日だけ留まる。
それくらいが、残された者のするべき事だろうか。
四十九日まで、特に何か行われることはない。
村人たちが解散した後、母を探して懐かしい我が家を散策した。
父が寝ていた部屋は、かつては自分も母も床に着いていた場所だ。
今は布団が一組しか敷かれていないが、今日はあと二組足され漸く家族に戻れた実感を味わうのだろう。
この部屋からはよく庭が見えた。
自分が幼い頃父はよく縁側に腰掛け、庭で遊ぶ自分たちを何を言うでもなくただ見つめていた。
家に呼び遊ぶ仲にまでなった友達は初めてで、父は表情に出さないながらも喜んでいたと母から聞いた。
あの頃の自分は何をして遊んだだろうか。
意味もなく走り回ったり、興味を引かれたものに手を伸ばしたり。
たったそれだけの事が幸せだった日常だと思う。
太陽は暖かくて、空気は澄んで、水は美味しかった。
確かに人里離れた村だったが、それでも何不自由することもなかったし、それが当たり前だったので不便だと思った事はない。
あの頃はまだ純粋で、自分はこの村で生まれたのだからこの村で死ぬのだと考えていた。
その思いも、外の世界に出てから少しずつ変わっていった
決して色褪せはしなかったが、思い出は過去である。
今の自分では、この村に留まろうという考えは浮かばなかった。



懐かしい思い出が残る庭を暫く見つめていると、自分を呼ぶ母の声が聞こえた。
その声を頼りに足を向けると、ふと人の気配がする事に気づく。
奥へと引き返し掛けていた身体を、気配に誘われるように向けた。



「    、ゾロ」



あの夏、この庭で数えきれない程遊んだ友人の声が聞こえる。
声を頼りに太陽の光が眩しい庭を目を凝らし見つめるが、残念ながらそこに人の姿はなかった。



「ルフィ?」



埋葬の後、気付いた時にはまるで初めから誰もいなかったかのように姿を消した友人の名を呼ぶ。
しかし姿の見えない友人からの答えはなかった。
もう一度会えたなら、謝りたい事があった。
あの時自分は大事な、唯一の友人にロクな挨拶も出来ず村を出てしまった。
謝罪と、それでも友達でいて欲しいを伝えたかったのだ。



「ゾロ?」



ふと間近で聞こえた声に慌てて振り向くと、母が心配そうな顔をして廊下から顔を出す。



「どうかしたの?」

「いや……なんでもない」

「そう?いくら呼んでも返事がないから、出掛けたのかと思ったわ」

「別に、この村で見回るとこなんかないだろ」

「あら、ルフィ君の所には行かないの?」



柔らかい声で告げられた名前にぴくりと身体が反応する。
その様子に母はクスクスと小さく笑う。



「ずっと会いたかったんでしょう?私に遠慮せず、会ってらっしゃい。あぁでも迷わず行けるかしら」

「いくら昔っつっても毎日通ってたんだ。迷いなんかしねえよ」

「そう……でも心配だから私も行くわ。ルフィ君の顔、久しぶりに見たいし」



埋葬の時会ったじゃないか。
まぁ一瞬だったけど。
と言いたかったのだが、少しだけ明るくなった母の顔を見てとりあえず今は黙ってついていく事にした。





第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -