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に。





片道5時間ほど運転をし、懐かしい故郷へとたどり着く。
最近のカーナビは優秀で、道なんてないに等しい村まで難なく案内してくれた。
小さい頃に出た故郷は、記憶に残っている光景と寸分変わらぬ様子だ。
村の入り口まで続く並木道は、変わらず小さく可愛らしい山吹色の花を沢山咲かせている。
窓を少し開けると、風と共に香るのは村の花と言われ重宝されている金木犀。
その甘い香りが車内に充満した頃、車は昔住んでいた家にたどり着いた。
父の死が知らされた時は、すでに息を引き取ってからもう何日も経っていたそうだ。
一人この村に残った父の死に、村の人はなかなか気づかなかったらしい。
昔から人付き合いはあまりよい方ではなかった事が原因だろう。
そんな所が、自分は父によく似ていると感じる。
部屋に寝かされていた父は、別れた以来だったためか随分と老けて見えた。
体も小さくなったのではないだろうか。
母はそんな父の姿に、静かに涙を流していた。



夏場の死体は腐りやすい。
こんな町外れの村に、専用の保管場所なんてものはなかった。
そんな事もあり、家に着いてすぐ小さな父の葬儀が始められた。
とはいっても、やはりこんな村に火葬場なんてものも存在しない。
手にしたスコップが、どんどんと地面を掘り起こしていく。
久しぶりの肉体労働だったためか、うっすらと汗をかいた。
この村の昔ながらの埋葬は、土葬だ。



「それでは、故人との最後の別れを」



集まった人々が、穴に収まる棺に向かって花を投げ入れた。
小さな村の葬儀なため、誰かが死ねばこうして全員で故人を見送る。
渡された花を、自分も母も投げ入れた。
百合や菊の花で、棺は見えなくなった。
あまり、実感が湧かない。
久しく会っていない人だったからだろうか?
父は、自分から見ても男として尊敬できる人間だった。
大好きな、父親だったのだ。
それなのに、両親は離婚してしまった。
父が一方的に離婚を切り出したらしく、母もその理不尽さに感化され勢いで判を押してしまったらしい。
それ故、離婚の理由は今まで聞かされたことはない。
結局、父はそれを語らないまま亡くなった。
ただ最後に父の言葉を聞いた記憶はある。
忘れてはいけないと言われていた言葉。
しかしその言葉は、こうして父を目の前にしても思い出せなかった。
それどころか、見えなくなった棺の中の人がどんな顔だったのかさえ、ぼんやりとした記憶になっていく。
寂しいとか、悲しいとか、寧ろ何の感情さえも何故か生まれなかった。
と、そこへ甘い香りが香った。
それと同時に、穴へ鮮やかな山吹色が白や黄色に向かい降り注ぐ。
小さな小さなその花は、まるで雨のように降り注ぎ、そして強く香りを残す。



「  、              」



花を投げ入れた人間の小さく呟かれた声を合図に、再び穴は埋められた。
最後を見送り、皆が手を合わせる。
しかし、今の自分にはそんなものは目に入らなかった。
山吹色を加えた人間から目が離せない。
それは、自分がずっと会いたかった人。



「ルフィ……」



無意識に溢れた呟きに彼は、笑んだ。





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