長 | ナノ
いち。





学生に与えられる夏休みは、社会に出てみると非常に長い時間であると気づかされる。
あの頃は近くの森や川に毎日のように遊びに行って、遅くまではしゃいで泥だらけになって。
家に帰ると母親にそれはこっぴどく叱られたものだ。
正直、幼い頃から人付き合いが苦手な自分に友達なんていないに等しい。
それでも、唯一あの故郷の村で親友と呼べる人間が一人だけいた。
あの暑く長い時間も、彼がいたから楽しかった思い出として記憶に残っているのだろう。
彼は今元気にしているだろうか?
中学生になった頃、自分は両親の離婚により母親に連れられ東京に出てしまった。
あれ以来村には一度も戻っていない。
今になって、あの頃父親といれば彼ともう少し時間を共有できたかも知れないと思う。
まぁ過去を振り返ってもいいことなどないのはわかっている。
ただ、彼との思い出をもう少し増やしたかった。
2つ下の彼には、もう自分の記憶なんて殆どないかもしれない。
しかし、浸ってしまいたいほど暖かい記憶の中の彼と、もう一度話がしたかった。
思出話で華を咲かせ、酒を酌み交わしたい。
そんな柄にもないことを考えていたのだ。
まぁそのきっかけも、意気地もないわけだが。



「ロロノア」



上司に呼ばれ、電話を取る。
耳に入る声は、もう面と向かい会話したのは5年も前になる母親だった。
会社に掛けてくるなと感情を隠さず告げるが、母はなかなか話始めない。
痺れを切らし切るぞと告げると、落ち着いた声で、母から一言告げられた。



「………え?」



チャンスが訪れた。
願ってもいないチャンスが。



「すみません。明日から二、三日、有給を取らせて下さい」



明日、俺はあの懐かしい故郷に帰る。
村に置いてきた、思い出を拾うために。

父が、死んだ。





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -