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エースとルフィで現パロ。
春コミでの無料配布でしたほのぼの兄弟です。
ちょうど夕日が落ちる時間。
今日は雨が降るかもしれないから傘を持って行くようにって言われてたのを、案の定忘れて現在帰宅中。
いつもなら、毎度おなじみのメンバーでの帰り道。
今日に限って、ルフィは居残りをさせられて、一人ぼっちの帰り道だった。
毎日往復する道も、状況が変わるとなんだか違った風に感じる。
学校から自宅まではそんなに距離はないのだが、ただひたすら真っ直ぐの道。
いつもだったら騒いではしゃいで、すぐに家についてしまうのが惜しいくらいなのに、今日はいつまでたっても家に着く気がしない。
「つまんねぇ」
思わず声を漏らすと、ルフィは少し俯きがちに足を進めた。
静かな住宅街。
学生が帰宅してしまえば、こんなにも静かだったんだなぁと思っていると、後ろからチリンチリンとベルの音がした。
「ルフィ!」
呼ばれた名前に、先ほどの音は自分に対して鳴らされたものなのだと理解した時には、頭部を少し強めに叩かれた後だった。
「ってぇ……て、エース!」
衝撃に踏み出た足で踏ん張ると、目の前に見慣れた自転車が止まった。
赤いボディに白字でストライカーと書かれた自転車は、兄であるエースの愛車だ。
「おう、我が弟よ。こんな時間に一人でご帰宅とは一体どうした?」
「居眠りしてた罰で居残り……」
「まったく、我が弟ながら情けない」
「それはエースに言われなくねぇし」
「しかも優しいお兄様が絶対に忘れるなとあれだけ言った傘も持っていないと見た」
「うっ……」
「西の空を見てみろ、雨雲がどんよりと。このままではもうじき夕立が来るかもなぁ」
なにやら役者口調で語るエースの言葉は、ルフィにとって耳が痛い内容ばかりだ。
してやったりな顔のエースからは自然と視線は逸れる。
「べ、別にすぐ降るとは限らねぇし……歩いて帰れるし」
「そうかそれは残念だ。優しいお兄様がたまたま自転車で通りかかったから声を掛けてやったというのに、その優しさを無下にするつもりか弟よ」
「……」
「兄ちゃんはお前をそんな子に育てたつもりはないぞ!」
今度はまるで悲劇のヒロインであるかのように語り始めた兄の姿に、思わす笑いがこみあげてきて。
うっかり声を漏らしてしまう。
「む、兄ちゃんはこんなに真剣なのに笑うか弟よ」
「しししっ……ごめん、ありがとエース。後ろ、乗っけてくれる?」
「うむ、初めからそう言えばいいのだ弟よ」
ふん、と少し胸を反らす兄の自転車の後ろに、ルフィは腰を下ろす。
そう言えばこの自転車の後ろに乗るのも久しぶりだ。
「いいか、振り落とされんなよルフィ!」
「おう!」
「んじゃま、さっさと帰りますかー!」
掛け声と共に、自転車はゆっくりと走り出した。
がたがたと一定に揺れる感覚に、不安定な体制を何とかしようとエースの肩を掴む。
でもやっぱり揺れるとお尻が痛い。
「エース、もうちょっとシンチョーに運転してくれ」
「むむむ、兄ちゃんはいつでも安全運転だが?」
「ケツ痛い。バランスとれない」
「うーん、じゃ、もうちっと安定するとこ掴まれ」
と言われ、うーんと悩んだ結果骨盤あたりに手を置く。
「ここでもいいか?」
「そうだなーちっと漕ぎづらいかも」
確かに、エースがペダルを踏むたびに手に腿が当たってしまう。
「んーじゃあ」
ココ!と腰に手を回す。
「おし、ナイスポジションだルフィ!」
「んで、こう!」
ぽすっと背中に密着する。
暖かい兄の背中。
おっきくて安心して、そう、バランスも丁度いい。
「これ、これでどうだエース?」
「完璧だ。よし、全速で帰るぞルフィ!雨の匂いがしてきた」
「おう!エースストライカー、ぜんそくぜんしーん!」
一人で歩いていた時の寂しさなんてすっかり忘れはしゃぐルフィに、エースも思わず子供の頃を思い出して全速でペダルを漕いだ。
「なぁエース!」
「あぁ?」
「俺さ!」
風を切って走る自転車だから、自然と二人の声も大きくなっていく。
「俺さ!」
「だからなんだよー」
「エースが兄ちゃんで、よかった!」
ぎゅっと更にしがみ付いて、自分よりずっと逞しい背中を堪能する。
「っ…今更!」
そう叫んだ兄の顔は見れなかったけど。
風に靡く髪の隙間から見えたエースの耳が、少し赤くなっているのをこっそり見てしまった。
でもそのことは、恥ずかしがり屋なエースには言わないでいるつもり。
ま、兄が嬉しそうに鼻歌を歌いながらストライカーを漕いでいるので、今は余計な事を言わないのが空気をよむ、っていうもんだろ?
END
自転車の二人乗りは、ダメ、ですよ?