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少女カナリアと煉獄・前


エールでパロ。
シリアスです。






8番街の路地を曲がれば見える赤い扉は、かつてアイツが歌っていたステージの入り口だ。
陽が沈めばショウの時間。
安い香水に趣味の悪いドレスを着て、アイツは古びたステージに立つ。
アイツが歌を唄うと、まるで魔術にでもかかったようにアイツしか見えなくなった。
心地よい歌声に、そこにいた何人もの客は男も女も関係なく目を奪われる。
薄暗い中、スポットライトの下でアイツはキラキラと輝いていた。
綺麗だった。
今まで見た何よりも、美しかった。
その姿に魅了され、その場でアイツを買い取った。
その時から俺は、手に入らないものはないと思っていたのだ。















「歌えればいい。それだけでいい」



ステージを降り、化粧を落とした彼女はそう言う。
安物で飾り付けた姿がそれでも輝いて見えたのは、意思の強いその言葉に彼女の生き方の美しさが感じ取れたからだろうか。
そんな俺たちの様子を後ろから伺っているのは、アイツを働かせ商品にしていたこの店のオーナーだ。




「カナリアの歌は如何でしたか?ポートガスの旦那」




相変わらずの強欲そうな顔で、こちらの様子を伺っている。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、商品の自慢をする声は耳障り以外なんでもない。
そんな奴に彼女はずっと飼われる必要なんてない。
安い金で店に来る客達の前で歌う必要なんてない。



「今はこれだけしか手持ちがない」



持っているだけの金を出し、この店のオーナーに掴ませる。
その札束に慌てるオーナーだったが、明日足りない分を用意させると告げた途端掌を返したように目の前の商品を差し出した。
驚いた表情のままの彼女の手を引き、着替えさせぬまま車に連れ込んだ。
さほど長くない道のりを走る車内に会話はなかった。
彼女はただ、じっとこちらを見つめている。



俺に買えないモノなど何も無い。
彼女の人生はこれから俺のものだ。

こうして愚かな俺は、彼女から歌を奪った 。



















流行りの服で 高価な宝石で、俺はすぐに彼女を飾る。
赤が似合う、あぁでもやはり白もいい。
屋敷へと呼びつけた洋服屋にあるたけの服を拡げさせ、金に糸目なんて付けず彼女に似合う服を買い取った。



「あんな酒場で歌うことはない」



ここで、自分のためだけに歌ってくれ。
そう告げると、彼女は口をつぐみ黙ってこちらを見上げてきた。
何か不安でもあるのかと思い、優しく髪を撫でてやる。



「金ならある。腐るほどな」



サラサラと流れる短い黒髪が、指に絡まることなく滑り落ちる。
その心地よさに何度も髪を梳いた。



「愛しいカナリア」



名前のない彼女はそう店で呼ばれていた。
彼女に名前を聞いても、彼女自身も忘れたと言うので自分もそう呼ぶことにする。



「愛しいカナリア、お前の欲しいものは全て用意してやるよ」



だからどうか、そんな眼で俺を見ないでおくれ。







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