絶望がひそやかに笑う
コックと船長。
甘くない話。
カタカタカタカタ、小刻みに震える。
無意識に震えた手は、手にしたカップを通じて恐怖を相手に伝えていた。
「どうした、飲まないのか?」
「いや……飲む、よ」
急かされた訳でもないのに慌てて口にした紅茶の味は、いつも通り最高の香りに最高の味だったのだろう。
流石この船のコック、そう思うのに。
今は味もわからないほど、一気に飲み干していた。
「ったく、そんなに喉が渇いてたのかよ」
苦笑しながらも、決して嫌がる素振りもなく空になったカップへ紅茶を注ぐ。
それをただ、じっと見つめていた。
「砂糖は自分で入れろよ……って、おい」
言葉を聞くこともなく、再びゴクリと飲み干した。
熱い液体が冷まされることなくまた胃へと送り込まれる。
そこにまた紅茶が注がれて……その繰り返しだ。
「砂糖はいいのか?」
もう何杯目か分からないカップに手を伸ばした所で訪ねられた質問。
一瞬ピタリと手を止めるが、それでも気にすることなく飲み干していく。
そんな自分を前に、ただ頬杖をついて紅茶を注ぐ相手は何か口にするわけでもなくただじっとこちらを眺めるだけだ。
居たたまれなさから何度か視線を反らそうとするが、じっと見つめてくる視線からそう安々と逃げることは出来なかった。
「たくさん用意してあるんだ、使えよ。お前甘い方が好きだろう?」
さらさらとした白い粉がたくさん入った金の容器。
光が反射して容器も粉もキラキラ輝く。
口にしたらきっと甘いだろう、スプーンを差し込めば音もなく崩れるであろうその山をただじっと見つめている。
手にあるカップに今すぐそれを溶かしてしまいたい、たくさんたくさん入れて甘く蕩けてしまいたい。
ゴクリと喉を鳴らしてしまい、手は勝手にスプーンに延びる。
ダメだダメだとわかっていながら、抑えられない衝動にかられる。
あぁ、わかっているのに。
「しょうがないな。じゃあ俺が代わりに入れてやるよ」
「あ……」
躊躇いもなくそそがれていく白い粉。
うっかりじっと見つめていれば、まだ足りないのかとどんどん足されて。
気が付いたらもうスプーン4杯目。
「さぁ、どうぞ?」
にんまり笑う貴方を直視できなくてただ目の前の液体を飲み干した。
絶望がひそやかに笑う
(それがただ甘いだけの粉じゃないって、俺は知ってる)
目が覚めた時、貴方はまだ笑っていますか?
END
船長専用、苦くないお薬。
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