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君の側にいたい 3



※微グロ表現有につき少しだけ注意












兄は、小さな頃から私にとって掛け替えのない存在でした。
少し乱暴ですが優しくて、私を何よりも可愛がってくれました。
学生と夜の仕事をしているという兄。
苦しい生活の中でも、それを微塵も見せない姿は本当に自慢できる兄です。
そんな兄と私は、自然と兄弟という関係を越えてしまいました。
兄弟である私達のこの関係を、皆さんはおかしく思うでしょう。
それでも抑え切れない感情に任せ、私達は心と体を繋ぎ結ばれました。
心配性の兄は行為の前に私が浮気をしていないか、いつも体中を調べます。
兄しか知らない内側に、誰か痕を付ける筈なんてないのに。
それでも念入りに調べる様子に、機嫌を損ねてはならないとじっと身を固くして終わるのを待つのです。
あの日の夜も、兄にいつもの検査を受けていました。
首筋から嘗めるような視線。
ゆっくりと鎖骨を伝い、胸、腹、腿と来たところで突然声を荒げて言いました。



「抱かせたな」



そんなことするはずがありません。
私はこの家から一度も出たことがない、誰かを招いたこともないのに一体何故そんなことができるというのでしょうか。
それは貴方が付けたのだと言うと、怒り狂った表情でこう言うのです。



「俺はここに印を付けた覚えはない」



左右の内股にある鬱血に向かい騒ぐ姿に、どちらも貴方が付けたのだと口にすると、容赦なく殴られました。
正直、毎晩のこの会話に私は慣れてしまっていました。
どうせ二三発殴れば大人しくなると思っていたのです。
しかし、あの日の兄はいつもの夜の兄とは違いました。
いつも夜は乱暴な兄が、この日は初めて優しい兄だったのです。
昼間の兄とは想像もつかない形相で、一心不乱に怒鳴り続けました。
それがあまりに恐ろしく、思わず兄を蹴り飛ばしその場から逃げ出したのです。
部屋を飛び出し、玄関先まで来て私は一度振り返りました。
もしかしたら兄が、いつもの夜の兄になっていたかもしれないからです。
そこには、左の肩を抑えながらよろよろと向かって来る兄がいました。
真っ赤に充血した両目と兄が手にしていた物に、私はついに家を飛び出したのです。よろめく足でなんとか家から逃げようと足を動かし続けました。
そして広い道に出た時。
突然の眩しい光に目が眩み、思わず立ち止まってしまいました。
何かが擦れる音、体に感じた痛み。
そして次の瞬間、私の体は宙に浮いていたのです。
ゆっくりと浮いている間に、視界には兄の姿が入りました。
地面に強く打ちつけられた体で、じっと駆け寄る兄を見つめました。
体中が痛みを訴え、ドロドロと何かが溢れ出していくのを感じました。
それが怖くて、あれだけの思いをしたのに私は結局兄に助けを求め手を伸ばしました。
すると息を切らせた兄は、私の手を取り言うのです。



「その体の跡はどうしたんだ?」



振り上げられた右腕。
私を見下ろす兄の表情。
あまりの恐怖に兄の名を呼ぼうとしました。
でも、私はどちらの名前を呼べばいいかわかりません。



「兄ちゃ……、ん」



月明かりを背負う兄の髪は、黒にも金にも見えました。
こちらを見つめる顔は、優しくも恐ろしい顔つきでした。
口に出された単語に兄はにんまりと笑み、優しく諭すように言うのです。



「アイシ、テルヨ」



それが私の記憶する、最後の言葉です。
















君の側に遺体





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