君の側にいたい 2
「……あ」
余計な事ばかり考えていたせいか、口に運んでいた筈の物が箸からポロリと落ちてしまっていた。
コロコロとテーブルを転がりそのまま真っ直ぐ床へと着地。
何故かそれをじっと見つめ、ゆっくりと停止する様子にチクリと胸が痛んだ。
しかしそれをそのままにしておくわけにもいかず、立ち上がって腰を折ってつまみ上げる。
親指と人差し指で摘まれたそれは、少し汚れていた。
「……そろそろ、掃除しなきゃな」
誰とにもなく呟いて、それはぐしゃりと潰された。
*******
「っ……」
急いで帰宅しようと駆けていると、擦れ違いに誰かにぶつかった。
ちょっと肩が触れ合った程度で、別にどちらからも謝罪の言葉もない。
というか、そんなものに構ってられなかった。
弟はちゃんとと学校に行っただろうか?
メールの返信もないし不安が過ぎる。
それにしても、と足を止める。
さっきぶつかった左肩が、異様に痛い。
少し服をずらして覗いてみると、そこには手の平ほどの痣が出来ていた。
どこかで知らない間にぶつかったりしたのだろうか。
「帰ったら、湿布貼っとくか」
それだけ脳に記憶して、もう目の前にある家へ向かった。
******
念入りに掃除機をかけた。
しかしなんとなく、部屋が綺麗になったとは思えないでいた。
それになんだか息が上がっているのは何故だろうか。
別に掃除をするくらいで疲れたりなんかしない筈だ。
それなのに、何故今こんなに苦しいのか。
「最近連勤だったからなぁ」
少し眩暈もする。
風邪でも引いたのだろうか。
少しだけ、ほんの少しだけ仮眠を取ることにしよう。
そう呟いて横になった体は、すぐに眠りについた。
*********
家についてすぐに弟の部屋へ駆け込んだ筈が、何故かリビングのベッドに転がっていた。
走り続けた体の息は乱れておらず、体に疲労感もない。
それほど眠り込んでいたのかと時計を見ると、自分が時計を確認した時間から10分程度しか経っていなかった。
起こした体を見て、いつの間にか部屋着に着替えていた自分に少し驚く。
無意識に着替えたのだろうか。
とりあえず今は弟の様子を確認しなくては、とソファーから立ち上がると転がった掃除機に足をぶつけた。
「……ルフィが掃除したのか?」
珍しい事もあるもんだ。
それを邪魔にならない程度の場所に置いて、部屋に入る。
布団からひょっこり覗く黒髪に思わず苦笑してしまった。
「すげえ寝癖」
ベッドに潜り込み髪をそっと撫でてやるが、手櫛ではもうどうにもならないレベルだった。
あちこちに跳ねる髪の一つ一つに口づけて、満足してから瞼を閉じる。
「俺もちょっとだけ、昼寝……」
布団が一人分膨れ上がった。
********
暖かい温もりに瞼を開く。
どれだけ眠っていたのかわからないが、眠る前までの疲れはなくなっており体は軽かった。
視線を下ろすとそこには体を覆う掛け布団、背中は少し堅めの感触。
どうやらソファーで眠っていた筈がベッドに潜り込んでいたようだ。
隣には弟の髪があちらこちらに跳ねながら、布団からひょっこり飛び出している。
「あー……俺寝相そんな悪かったか?」
寝ぼけて弟と昼寝だなんて、目を覚ましたら笑われてしまう。
「しっかしすげえ寝癖」
髪に指を滑り込ませ撫でてやるが、手櫛ではもうどうにもならないレベルだった。
あちこちに跳ねる髪の一つ一つに口づけて、少し満足する。
「愛してるよ、ルフィ」
ずきりと痛む左肩に、そう言えば湿布を貼るのを忘れていたのだと思い出した。
掃除機も出しっぱなしだ、片付けないといけない。
何はともあれ、この眠りっぱなしの弟をそろそろ起こしてやらねば。
「ほら、もういい加減起きろ」
枕に沈む頭を引き寄せる。
抵抗もなく腕に収まる弟はまだ寝ているのか、はたまた甘えているのか。
どちらにせよこのままでは布団の肥やしになってしまう。
優しく抱き上げた弟を胸に、部屋を出た。
君の側に痛い