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眩しい程の月明かりに目を細めながらも思わず見上げてしまうのは、それ程までに月が美しかったからだろうか。
自分にそんなものを感じる感覚などないが、今宵の月は素直に綺麗だと思えた。
足を止めてじっと見上げる。
そういえば昔、あの月には兎がいるなどと吐かした人間がいたことを思い出した。



「……で、お前はどこまでついて来る気なんだ?」

「なんだ、気づいてたのか」



背後に現れた男の姿を視界の端に捕らえ、その様子に目を細めた。



「随分とまぁ、ボロボロじゃねえか」

「ちょいと厄介なもんに会ってな。しかし美味そうな餌を見つけた」

「で?その餌に手ぇ出して返り討ちか」



鼻で笑い、視線を月へと戻す。



「今回は、な。でも次は確実に戴くさ」

「懲りねぇな」

「たった一口だったが、身体に力が漲るんだ。味もまさに一級品。もしお前が見つけてたら、同じ様に俺に話すだろうよ」

「どうだろうな。……俺は食事だ、都に下りる。もう離れろ」

「まぁそう言うな。同族の誼、少し餌を分けてくれ」



図々しくも人のテリトリーで言って除けるこの余所者の態度に、思わず溜息を吐いてしまう。
そんなに長い付き合いでもないのに誼なんてある筈もない。
いっそ厄介なものとやらに消滅されてしまえば良かったものを。



「知るか」



これ以上話すのも面倒だ。
腹も減ってイライラしている。
背後の男は無視して、今は自分の腹を満たそうと足を進めた。



「おい、都はそっちじゃないぞ」



にやりと厭味ったらしい笑みを浮かべながら、男は自分が進もうとしていた方とは反対へ歩き出す。
いつか切り刻んでやる。
そう思いながら、今は大人しく男の後に続いた。





...And that's all?


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