calendar 後
それからどこへ行くにも欲しいものはないかと問い掛けられる。普段の調子で肉!と答えるルフィに、全員が口を揃えたかのように同じ台詞をはくのだ。
そうじゃなくて『特別に』と。
そうは言われても普段から欲しいものは手に入っているので、特別にと言われても突然思い付くわけない。
「欲しいもの……なぁ」
よって全ての部屋から飛び出してきたルフィは、こうして甲板にて考え事をしていた。
というか何故いきなり欲しいものは、なんて仲間は尋ねてきたのだろうか。今度はそんな疑問が過ぎり、ルフィの頭は破裂しそうだった。
「だーッ!よくわかんねぇけど、ようはなんか欲しいもん考えればいーんだろ?」
んー、と再び悩みはじめたルフィはじっと海面を見つめる。
穏やかに波打つ水面に夢中になって目を向けていると、突然そこに泡が浮かびボコボコと音を立てはじめた。そしてすぐに波が荒くなり、下から何かが浮き上がって来るのが見える。
「なんだ、魚か!?」
身を乗り出して見つめていると、そこに現れたのは一隻の潜水艦だった。しかも見たことがある船。
ルフィが目をパチクリさせている間に完全に浮上した船の扉が突然開き、人が飛び出してきた。それも見たことがある。
黄色いパーカーにもふもふの帽子、あれは確か。
「むっぎわっら屋ぁああー!」
「ロー!?」
とうっ!なんて掛け声と共に現れたのはトラファルガー・ロー。
ちなみに潜水艦からサニーに何も使わず飛び乗ってきた脚力に突っ込む人間は只今不在である。
「どうしたんだー?久々だな!」
「麦わら屋、お前、何か欲しいものはないか?」
「なんだよーお前もか」
うーんと唸り始めてしまうルフィに、見事着地に成功したローは遅かったかと唸る。
「なんなんだろうなー、皆して欲しいもの聞くんだよな」
「お前、5日って誕生日だろう?」
「あ、なるほどー!」
ルフィはキラキラした目でやっと理解した様子で答えた。全く、今日が何日かも分かってないなんてなんて可愛いんだコノヤロー!
「で、何かあるのか?」
「んーそれがなかなか浮かばないんだよな」
むーっと口を尖らせて悩む姿は贔屓目から見なくても可愛らしい。……なんだ、文句あるか?
「……なら、何か俺に出来ることはあるか?」
「できること?」
「そうだ。ものではなく、して欲しい事だ」
切り出し方を変えての質問に、ルフィはそうだなーと改めて考え直し始める。
が、今度の質問に対してはどう時間がかからなかったようで、ぱっと上げられた顔はキラキラ眩しい。太陽なんか目じゃないとはまさにこのことである。
「じゃあさ、今日一日遊ぼう!」
「遊ぼう?」
「おう」
「二人でか?」
「おう!だってローと一日過ごすなんて滅多にできねえもん!」
そのお誘い、のったぁあああああ!!
「じゃ、じゃあ今日一日俺は麦わら屋のものってことで」
思わずもじもじしながら言ってしまう。だってこんなこと人生のうち何度あるか分からない。遊ぶって、二人でって、こりゃあもういただきますいやーんなお話なわけですよね。
猛烈にテンション上がってきたのはきっと気のせいではない筈。
「じゃ俺の部屋行こうぜ!」
「!?」
先ほどから繰り返されている言葉は夢かと思うほど今までローの頭で妄想として繰り返されてきた会話によく似ていた。俺の部屋でだなんて、とんだ大胆な野郎だコノヤロー!
心の中は大喝采。でも表情には出さず、ローはルフィに連れられるまま船内に入る。
「じゃ、まずは……」
部屋に着くなり上着を脱ぎだすルフィにローの心臓は止まりそうだった。そんないきなりこんな昼間から!?
や、全然俺は構いませんけどねハハハ!
「なんだよ、ローも脱げよ」
「あ、あぁ…///」
急かされるように脱ぎ捨てた服。普段自分の仲間にも見せたことのない裸を、まさか一番に見られるのがルフィなんて大歓迎過ぎて涙が出ているローに構う事なく抱き着く。
「ちょ、麦わら」
「じゃ、最初はプロレスな!」
え?今なんて言いましたよく聞こえませんでしたが、と問う間もなく締め上げられる体にローは悲鳴を上げる。
「いたたたたたっ!」
みしみしと変な音を立てるのはローの体。
通り名を聞いていただければお分かりのように、ローはあまり体育会系なことは得意ではない。しかしルフィの締め上げは遠慮なく続く。
「やー、最近体が鈍ってたんだよな」
「いだだっ、ちょ、待って」
「今日は一日遊んでくれるんだろー?」
そんな無邪気な笑顔で返されたら、何にも言えません。
だって惚れた弱みって、言いますものね。
結局ローは一日中ルフィにつき合わされ、へとへとになって自分の船に帰った頃にはすでにどっぷりと日は暮れてしまっていた。
どっと疲れた体はベッドに横たわるとともに重く何かがのしかかっているような感覚を覚える。
外は何やら騒がしい。何かを祝っているような声が聞こえる。
ちらほら聞こえるおめでとうの声に、あぁそうか、今日は麦わら屋の誕生日だったかと思った。
「誕生日、おめでとう」
本当は君に直接伝えたかったけど。体が限界で言うことを聞きません。
でも心から、お祝い申し上げます。
お誕生日おめでとう、ルフィ。
「さー飲むぞ野郎ども!」
乾杯の声と音楽と、ルフィの声でサニー号は今夜もにぎやかである。
サンジが特別に用意してくれた料理は絶品だし、ゾロが差し出した酒は酒に弱い自分の口にも合った。ナミはお小遣いを少しくれたし、チョッパーは元気になる薬を調合してくれた。
ウソップとフランキーは何やら新発明した玩具をくれたし、ロビンは自分にも読める簡単な本をくれた。今ブルックが弾いている曲は自分がもっとも好きなものだ。
今日一日でたくさんのプレゼントをもらったルフィは、心も体も満たされていた。主に体に関しては一日無理をしてまで付き合ってくれたローのお蔭である。
「なんだルフィ、嬉しそうだな」
隣に座っていたゾロの言葉に全力で頷く。
だって嬉しくない筈がないじゃないか!
「俺、こんなに祝ってもらえて幸せだ!」
いっぱいいっぱいプレゼントはもらったけど。
貴方と過ごした時間が一番う嬉しかったよと。
明日の朝、一番にあなたに伝えたいと思います。
カレンダーの数字は、もうすぐ6日を示す。
end
スパークで無配でしたルフィ誕のお話でした。
い、今更ですみませんわすれてましry
ローさんは鬼畜でもヘタレでもオタク(!?)でも美味しくいただきます。
お手に取ってくださった方はありがとうございました!
是非、読み終わったら可燃物へ。