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拝啓、お兄様


船長とクルーと。







昔さ、と突然口を開いた我らが船長にクルーは各々が手を止めそちらへ目をやった。
普段なら騒がしいあの船長の少しトーンの落ちた声に、違和感を覚えたのだ。
じっと海を見据えぽつりと言葉を発したまま、まるで時間が止まってしまったか
のように動かない姿に皆がゴクリと唾を飲み込む。
いつもなら心地よい筈の潮風も、今は何故か肌にへばりついて気持ち悪い。



「昔さ、」



また、そこで言葉が途切れる。
後ろ姿ではわからないその表情が、無性に気になった。
ここで一言、誰かがルフィと名前を呼んでいればこちらを振り向いてくれたかもしれない。
徐に麦わら帽子へとたどり着いた手が、ビブルカードを引っ張り出した。
別れた兄がやはり恋しいのだろうか。
少し俯いた顔から、小さく声が漏れる。
誰もがその声を危機逃さぬように集中していた。



「昔、まだ俺が小さかった時もエースはこうやって心配して何か残していったんだ。俺意外と寂しがり屋だからさ」



懐かしむような声。
少し照れ臭さもあるのか、俯いた顔は未だそのままだ。



「やっぱエースはすげぇなって、俺の事なんでもわかるんだって思ったんだ。エースが俺に渡してくれた物のお陰で、あんまり寂しくなかったんだ」



ゆっくり吐き出される言葉に、皆が黙って聞き入った。
勿論今すぐにでも抱き締めて、今は仲間がいるだろって言ってやりたい。
でも今は、最後まで話を聞きたいと思う。
滅多に聞けない真剣なルフィの言葉なのだ。



「でもさ、やっぱどうしても寂しくなって言っちまうんだ」



振り向いたルフィの頬は、ほんのり赤く染まっている。
その顔にドキリと脈打ち、胸が締め付けられた。



「寂しいよ、お兄ちゃん……なんて」



伏し目がちに、睫毛を震わせ放つ言葉はクルー全員の胸を打つ。
うっかり力んで涙腺から赤い液体を流すものもいた。
そんな周りの反応にも気づかないのか、ルフィは言葉を続けるばかり。



「普段はお兄ちゃんだなんて呼べないから。一人でいるときくらいは甘えて呼ぶんだ。でもさ、こうやって呟くとエースってすぐに来てくれたんだ。あ、勿論こんな広い海じゃ無理だけど」



鼻の奥がツンとする、視界が何故だかぼやけてくる。
胸が締め付けられて今すぐにでもこの健気な船長を抱き締めたい。
青い空の下、真っ赤に染まるクルー達は拳を握りしめた。

愛らしい我らが船長、一生貴方に付いていきます。

誓いの言葉を立てながら、その背後から物凄い勢いで迫る小舟に溢れ出る全てを飲み込んだ。



















【拝啓、お兄様】

(今日も海は青いです)







END







サブタイトルは「お兄様が見ている」(笑)


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