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甘く優しい君の呼吸にキスを一つ


エール←ローに続く感じの陰陽師パロのようなもの。
完全に趣味に走りましたすみません……













はぁ、はぁ、はぁ。
荒くなる息遣いは果たして自分のものか、それとも自分を追うモノのものか。
こっそり家を抜け出し森へ入り込み遊んでいると、うっかり出会ってしまったのは妖。
修行と言われ屋敷から一歩も出なかったため外のモノと出会うのは久方ぶりであった。
正直、真面目に修行に取り組まなかったため術なんて殆ど使えない。
どちらかと言えば体術に長けているようで、精神力を使う術というのはあまり肌に合わなかった。
が、それを今になって後悔している。
所謂妖、妖怪と呼ばれるものには物理的な攻撃は意味をなさないからだ。
かといってそんなことを今更悔やんでもどうすることも出来ないルフィは、先ほどから必死で逃げていた。



「っ……!」



先程付けられた足の傷が痛む。
傷はチリチリと右足の内股を刺激し、逃げる足を遅くさせていた。
一方こちらを追うモノのスピードは着実に速くなっている。



「あ……ッ!」



後ろに散らせた意識が悪かったのかうっかり躓き、まだ大人に成り切っていない体は呆気なく地面に放り出された。
ゴロリと転がり相手を見据える。
異形のモノの正体ははっきりとは分からない。
黒い影だけが揺らめきまるで漂うようだ。
しかし確実にそれらの意識は自分に向かっていた。



「うっ……この!」



いつの間にか足首に絡み付く影を払おうと暴れるが、物体ではないそれは離れる筈もなくジワジワと体をはい上がる。
まるで手の様な感覚を与えた影は、傷口までたどり着くとまるで舌で舐めるような動きをし滲み出る血を絡めとっていった。



「ヒッ、ぃ……!?」



一瞬影がピタリと止まった。
しかし次の瞬間一気に拡がった影が集まりみるみる内に形を成していった。
傷に触れていた部分に模られたのは青年の顔だ。
自分より少し大人び色白で精気のない顔は、じっとこちらを見ている。
目の下に濃く浮かび上がる隈が更に不気味さを醸し出した。



「ほう……お前、なかなか良い血を持ってるな」

「な、なななんだよお前っ!」

「ほぼ妖力0で形すらなせなかった俺が、ここまで回復出来る血なんてそうそうお目にかかれない。お前、名前は?」



伸びる腕にはまるで呪印のように夥しい程の刺青。
指先まであるのではないかと思わせるそれに、恐怖よりも興味が湧いた。
頬に触れた指は冷たかった。
でも添えられた掌は熱い。
見つめる視線はまるで絡むようで逃れられず、ゆっくりと唇を動かす。



「あ、え、っとル」

「主、それ以上喋るな!」



ねっとりと絡み付く気配が離れ、代わりに熱く逞しい腕に抱えられていた。
見上げたそこに写るのは自分がもっとも信頼している相手。



「エース!」



黒い髪を靡かせ突然現れた青年は、ルフィを抱えたまま妖から距離を取る。
そしてその場にそっとルフィを降ろすと、自分の背に庇うようにし直ぐさま妖と対峙した。



「主、探したぞ。まったく、一人で屋敷の外へ出るなってあれほど」

「コラー!主って呼ぶな。ル、むぶっ」

「はいはーい、それ以上はもう喋るの禁止なー。マルコ!」

「あいよーい」



茂みの中から現れた男の姿に妖は一瞬身構えた。
が、そんな妖には目もくれずすたすたとルフィまで近付くとその体をひょいと肩に担ぐ。



「主は足を怪我したみたいだ。すぐサボに看てもらってくれ」

「わかってるよい。ちなみに主さま、サボの奴めっちゃ怒ってたんで覚悟しといた方がいいよい」

「え、マジで!?てかちょ待っ」



ルフィの反論の言葉が言い終わる間もなく、二人はあっという間に姿を消した。
ひらりと舞い落ちた一枚の青い羽根に目を配らせ、妖はゆっくりとエースに視線を移す。



「あいつ、式神だな。しかもなかなか上位な奴だ」

「……お前、鬼の種族だな。しかも一番面倒な夢魔ってやつか」

「へー、よくわかったな。俺はトラファルガー・ロー。アンタは?」

「お前に名乗る名前なんてない」

「ケチケチするなよ。確かに夢魔は名前で相手を操れるが、残念ながら好みじゃない奴にはかけられない催眠なんだ」

「うるさい黙れ。妖の分際で主から血を奪うなんて許されねえんだよ!」



その言葉と共にエースの周りにメラメラと炎が舞い上がった。
まるで生きているような動きの炎は、ロー目掛け一直線に走る。
しかしそれをヒラリとかわしたローは体を影の状態にし、一気にエースまで間合いを詰めた。



「おー怖。アンタ炎の式神か。さっきの奴みたいに鳥かなんかか?」



文字通り目の前で形をとったローは、ニヤリと口端を吊り上げエースを挑発する。
しかしエースは頑として口を割らない。



「なんだ、教えてくれても構わないだろ?アンタとはここでさようなら。俺はアイツを早く追いたい、…っぐ!」



いつの間にかローの首を掴んでいたエース。
そこからジリジリと煙が上がり皮膚が焼ける嫌な臭いが立ち込めた。
慌てて影に身を替え、ローは一気にエースから距離をとる。



「チッ、折角拝借したのにやってくれるな」

「うるせぇ下種が」



エースの周りに立ち上がる炎は赤く、灼熱の如く熱されている。
恐らくあの炎は如何に上位な妖でも燃やし尽くされてしまうだろう。
が、自分のように形の無いものは流石に簡単に燃やす事など出来ない筈だ。
それを意図も簡単にやりのけた存在に、ローは先程の笑みを落とし慎重になる。



「しかし黒い炎……か」



エースを包む炎は、周りを囲う赤い炎とは違いまるで闇のように黒い。
式神にしては闇に近い、陰の力も感じた事にローは頭を悩ませ古い記憶を呼び起こしてみた。
本来式神とは光に近い力を持つ。
先程いたマルコと呼ばれた男も強い光、陽の力を感じた。
が、目の前の男は何かが違う。
その正体はまだはっきりわからないが。



「俺に直接触れると全て燃え尽きなくなる。唯一触れられるのは主だけだ」



纏う黒炎がうねり、こちらを威嚇して来る。
睨みつけるエースの瞳は瞳孔が細まり金に染まった眼球は闇の中で良く映えた。



「まさか、お前……蛇」



言い終わるか否か、黒炎は四方に分かれ音を立てローをぐるりと囲んだ。
まるでとぐろを巻く様な様子にローも声を上げ、高らかに笑い上げる。



「金の瞳に黒い炎、こりゃあ恐れ入った!まさかあの伝説の蛇神だとは思わなかったぜ」

「ああそうかい。しかし残念だったな、俺の正体を知った奴は生きていられたためしが無い。……死ね」



エースの言葉が合図と言わんばかりに黒炎がローに襲い掛かる。
が、チラリと目に映ったものによりエースは動きを止められた。



「ここで殺り合って死にたくはない。ま、俺もまだ完全完治ってわけじゃないんでな」

「お前、それをどこで」

「アイツが落としていった。わざわざ拾ってやったんだ、今日は見逃してくれよ」



ふわりと投げられたのはルフィが大事にしている麦藁帽子だった。
肌身離さず手にしているそれには、エースが妖避けにこっそり呪符を仕込んである。
それに難無く触れているローはつまり、かなりの妖力を持った妖ということだ。
油断がならない、殺気を強め相手を視界に捕らえる。
が、既にそこにローの姿はなかった。



『じゃあ、またな』



声だけが木霊するが、妖気は殆ど感じられない。



「クソ……次はねえよ」



苛立ちに任せ揺らめく黒炎を撒き散らす。
燃え盛る木々は、恐らく二度と再生しない。
じっとその炎を見つめているエースだったが、ルフィの事が心配になりすぐに屋敷へと飛び立った。

エースの放った黒い炎は三日三晩消えることなく、ついには辺りを燃やし尽くしたという。












甘く優しい君の呼吸にキスを一つ






END



続くか続かないか微妙な感じで。
夢で見た内容をちょっといじりました。
なんだかエールっぽいロールで。
まっっったくルフィが陰陽師って感じがしませんが、そこはティロフィナーレ←
ただマルコとエースにルフィを主って呼んでほしかっただけという(ぁ)
自分だけが楽しかった……


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