その先はお伽話の続き
某局の某隣人ドラマっぽい話にしようとして失敗したエー→ル。
父親は単身赴任で、家には殆ど帰らなかった。
正直、顔は写真でしかわからなくなっている。
一緒に暮らしているのは母親で、否、育ての母親だった。
自分を産んだ母親は、自分が生まれると共に亡くなったらしい。
だから、血は繋がってはいないがマキノは俺にとって母親そのものだった。
家は住宅街から少し離れた小高い丘の上。
一戸建てのなかなか大きな家が二軒立ち並び、白い家に自分達が住んでいる。
隣の黒い家は、つい最近引っ越したため空き家だった。
「ルフィ、明日はお休みだからどこかドライブにでも行きましょうか?」
「おう!じゃあ海がいいな」
「ふふっ、いいわよ。ルフィは本当に海が好きね」
今年で高校生になるルフィは、明日が楽しみではしゃいでいた。
まだまだ成長期である体は他の年代の子に比べるとやや小さい。
童顔であることも幼さを寄り引き立たせてしまっているかもしれないが。
そんなとき、ふとカーテンの隙間から外の景色がルフィの視界に入る。
見えたのは隣の家、そしてその前に佇む人。
顔は良く見えないが、こちらを向いているのが何故かわかった。
口元が動いている。
何を言っているのか、わからない。
わからないがまるで吸い寄せられる様に窓へ近づいた。
ガラスに手を沿え張り付く様にして目を懲らす。
ふと、月明かりがさした。
ぼんやりと見えはじめた顔。
目が離せなかった。
『 』
そしてまた、言葉を紡ぐ。
口の動きを見ながら言葉を考えた。
なんと言っているのだ、あの人は自分に何を言いたいのだろう。
どうしても気になり外へ飛び出そうと踵を返した。
が、どんっと何かに遮られる。
「ほらルフィ、ごはんできたわよ」
「……でも!」
振り返り窓の外を見つめた。
でもそこには誰もいない。
「ルフィ?」
「……なんでもない。腹減ったし飯にしよう!」
なぜだか怖くなってカーテンを閉めた。
早く、忘れようと思った。
次の日は朝早くからマキノと出掛けた。
楽しみだったこともあったが、気分を晴らしたかったのも少しあった。
帰りに買い物を済ませると、家に着いたのは日も暮れはじめた頃だった。
家の前でトラックと擦れ違う。
引っ越し、と書かれた文字を目で追い、なんだか変な気分になった。
無意識に隣の家を見上げる。
明かりは点いていない。
誰も居はしない。
「ルフィ?」
マキノの声に意識を戻した。
もう、考えるのはやめることにしよう。
夕食は外で済ませたので、後は風呂に入って寝るだけだった。
ぼんやりとテレビを見ながら、昨日のあれからまる一日たったと思った。
その時チャイムが鳴った。
こんな時間に誰かしら、とマキノは玄関に走る。
ガチャリと扉の開く音から少しして、マキノが自分を呼声が聞こえた。
「今日、お隣りに引っ越してきたんですって」
マキノの声が、玄関に響く。
しかしそんな声は耳に入らず、ルフィはただ、目の前の人物に釘付けになった。
そして弧を描く口がゆっくりと言葉を発する。
「こんばんは、ルフィ」
玄関先には、一人の青年が立っていた。
見かけからして成人して間もないくらいか。
良く鍛えられた体と端正な顔立ち、そこに散らばる雀斑がまたチャームポイント
なんだろうか、いかにもモテそうな男が立っていたのだ。
「ほらルフィ、挨拶して」
「あ……の、こんばんは」
「お隣りに引っ越したエースさん。仲良くするのよ?」
気後れしてしまった。
立ち姿が、まるで昨日のあの影にそっくりだったから。
そして何よりその言葉。
「よろしくな、ルフィ」
まるで、あの時聞こえなかった声が再生された感覚だった。
その先はお伽話の続き
END
恐らく続かないです。
続けたかったけど←