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ちょこれいとの唄 3





少し日が傾いた頃、ナミとロビンに別れを告げたルフィは手にした袋を離さないようにきつく握りしめ駆け足で船に戻った。
ただ、あの唄を口ずさむのは忘れない。



「ちょっこれいとー。ちょっこれいとー。ふんふんふふふーんッと」



急いで飛び込んだ船の甲板には、それは大層慌てて走りまくっているエースと、それとは真逆に静かに佇むサボの姿。
あ、サボちょっと怒ってる、と思ったのはほぼカンである。
そんな兄達の元にテテテと駆け寄りおかえりと告げた。
そんな自分にサボは笑顔で、エースは泣き顔で己の名を呼ぶ。



「どこいってたんだよぁあああ!いいかルフィ、いくら慣れ親しんだ島だからといって…いや、親しんだからこそ危ない事がたくさんあるんだっ勝手に一人でフラフラしたらダメだろ!」

「ルフィ、俺は留守番お願いしたよね?」

エースは見れば分かる(些か過剰な)感情表現をしてくれるので、ルフィも最近では対処法は分かっている。
が、サボは完全に読めない。分からない。
きっと空気の読める人間選手権なんてものがあったとして、そこで優勝した人がいたとしても恐らく、いや確実にサボの心境は分からないだろう。
それ故、野生の勘を持つルフィも毎度サボへの返事の仕方に悩んでいる。
少しでも地雷を踏めば、死に目を見るのは自分だ。



「んと、腹減ったからちょっと飯を食いに」

「どこへ?」

「サンジんとこ」

「……他に会った人は?」

「えと、ゾロ」

「ほー……」



素直に答え嬉しそうな顔の弟に対し、そんな話を聞けば聞くほどテンションが急降下するサボの様子にルフィは最速引きつった笑みが浮かんだ。



「で、でも他にもナミとかロビンもいたし」



同じ現場にはいなかったけど、という言葉は飲み込んで答える。
その必死な姿を探る様に見つめるサボだったが、ゆっくりと瞬きをするとそこには先ほどは違う笑みがあった。



「まぁ、今日は仕方がないか」

「へ……?」

「サボは結局そうやってルフィに甘いのなー」



後ろからのしかかるエースの重みになんとか耐えながら、ポカンと口を開けているとサボは突然笑い出す。
それに加えエースも笑いだすものだから、ルフィの頭の中は混乱していった。



「まぁ最後なんだし、今日はルフィの行為に免じて許してやるか」

「そうだな、それくらい許さねぇとちっせぇ兄貴だと思われちまう」

「んー、エースはもう十分小さいのバレてるから大丈夫じゃない?」

「なんだとーッ!?」



自分を放っておきながら始まった取っ組み合いに、ルフィは完全に取り残された。
そんな兄達のじゃれ合いの中飛び交うのは先ほどまで手に持っていた袋。
ナミからもらったそれよりも幾分か小さい白い袋は、エースが持っていたと思いきやサボへ、サボが持っていたと思いきやエースへと、言ったり来たりを繰り返す。
その見覚えのある袋を見て、今まで隠すように持っていたものが兄達の手に渡っている事に気づいた。



「あ、それ」

「勿論コレは兄ちゃん達に、だろ?」

「嬉しいな、まさかルフィがバレンタインを知ってたとは思わなかったよ」



シンプルな紙袋の中に入っているのは、ピンク色の紙に包まれた二つの小さな箱。ナミとロビンに一緒に選んでもらったそれを手に、二人の兄は満面の笑みで抱きついてくる。

「大事な人にだけあげるんだって言われたんだ」

「ああ」

「それで、俺一生懸命二人のを選んだんだ」

「うん」

「二人だけなんだぞ、チョコあげるの!」



ぎゅーっと抱き付き返してたくさん伝える。
ありがとうと、大好きと、それからそれから。
他にもたくさんある筈なのに、結局出てくるのは在り来たりな言葉ばかりで歯痒いのだけれども。
それでもこれからもずっと一緒に冒険してくれる兄達に、これ以上の言葉が見つからなかった。
そんな弟を何より大事にする兄達は、小さなプレゼントに先ほどまでの怒りはけし飛んで行く単純な頭だった。
二人に取ってモノに価値はない。
相手が大事だからだ。



「たくさんたくさん想いを込めて、はっぴーばれんたいん!」



何度もナミ達と練習した言葉をなんとか言い終えたルフィは満足そうな顔をする。
そんな弟を兄達はこれでもかというくらい抱きしめた。
今日はSt. Valentine's Day.
世界各地で愛を誓う日。
そんな特別な日に一番愛を誓われたのは、恐らくこの小さな船に乗る、三兄弟の末っ子だったであろう。




■□■□■




「ちょっこれいとー。ちょっこれいとー。ふんふんふふふんちょっこれいとー」



日も暮れてももうすぐ夕食になる時間、またルフィは特等席に座り込みあの唄を歌う。



「ルフィ、またその唄歌ってるの?」

「てかその唄誰に教わったんだ?」



船内からひょっこり顔を出した兄二人は、今日一日中歌われている唄に少し興味を持った。
聞き慣れない唄は一体どこで習ったのだろうか。



「うん、頭から離れないんだ。それに今日一日は絶対これ歌っとけってシャンクスが」

「シャンクスだって…?」

「あの赤髪野郎、何変な事ルフィに教えてやがんだ」



エースとサボの顔は一瞬だけ嫌悪に歪む。
正直あの男にいい思い出のない二人は、完全に毛嫌いをしていた。
勿論一番嫌いな理由は、弟の尊敬する海賊があの赤髪だからだったりする。
他にも白ひげとかカイドウとかビック・マムだとか他にもたくさん四皇はいるというのに、ルフィはあの変態でショタコンなシャンクスを尊敬している。
首から下げているのはそのシャンクスから預かっているものだ。
ちなみにいつかその麦わら帽子は熨斗を付けてお返しするのが今の目標だ。



「なぁルフィ、折角だからその唄全部歌ってみてくれないか?」

「おう、いいぞ!」



少し胸を張って咳払いをする。
そしてルフィは改めて、本日歌い続けていた鼻唄を歌い始めた。




*******



ちょっこれいとー 
ちょっこれいとー
ちょっこちょっこちょっこちょっこ
あまくて美味しい 
ちょっこれいとー
お口の中でも 貴方の中でも
優しくとろけて 甘い夢 
忘れられない あの感覚を
思い出させる 小悪魔みたいな
ちょっこれいとー 
ちょっこれいとー
ちょっこちょっこちょっこちょっこ
また会いましょう 
ちょっこれいとー
必ず会える その日を胸に
優しい温もり 甘い夢
忘れさせない あの感覚を
私を食べて 小悪魔みたいな
ちょっこれいとー
チョコレート



曲名 『ちょこれいとの唄』
作詞作曲 赤髪海賊団・船長
唄 モンキー・D・ルフィ



*******




「「 ………… 」」

「どうだー?」



どうだと尋ねる弟は大変可愛らしい。
唄を歌う姿も大変可愛らしかった。
ちゃんと脳裏に焼き付けてある。
あるのだが歌詞が頂けない。
歌詞が凄く、個人的に、いやきっと万人にも頂けないのではないだろうか。



「私を食べて……」

「小悪魔みたいな……」



そこ言わせたくて歌わせましたね、赤髪さん。
歌詞のセンスも凄い変態の域に達してますね、もう早く滅亡してください。



「早くシャンクスに会いてぇな」



麦わら帽子をじっと見つめて呟くルフィ。
あぁ、俺達も早く会いたいぜ。
そしてその帽子を熨斗付けて叩き返した後、あの赤い髪をその唄を歌いながら毟ってやるんだ。

今日はエースとサボの新たな誓いを立てた日になった。



おわり





なぜかシャンクスがこんなポジションなASLをよく書いてる気がします。
歌については全力で忘れてください。
全力で、忘れてください。
全力ry

その日のうちに手伝ってくれた友人から「シャンクスくそワロタwww」とメールをもらったのが忘れられない……


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