ちょこれいとの唄
2/13日のGLCで無料配布したもの。
ASLが三人で海賊団だったらなパロ。
ASL前提でZLだったりSLだったりなバレンタイン話でした。
特等席の船首に座り込み唄を歌うのは、この船の中で最年少であるルフィだ。
まぁ最年少と言っても、この船にあとは兄であるエースとサボしか乗っていない。
そんな彼らは、巷で最近有名になり始めた兄弟三人だけの海賊だ。
ルフィ達は今、ログポースが溜まるまでを物資集めと食糧調達などをしながらこの島で過ごす事にしていた。
ルフィは今日珍しく船で留守番ある。
本来ではありえないのだが、海賊であるにも関わらず三人はこの島に一月ほど滞在していた。
理由は特にない。
ただ強いて言えば、どことなくこの島が故郷に似ていたからかもしれない。
「あー、しかし暇だなー」
今日は最後の日だからと、兄達二人は食糧を調達しに行っている。
なんでも、今日しか手に入らない材料もあるとかで早朝から出掛けて行った二人に前日から留守番を任されていた。
一か月もいた島なので、地形も慣れたし住んでいる人達も顔見知りになったので安心したのだろうか、度を超えた過保護の兄二人は初めて弟を一人にした。
「よし、ちょっとだけ散歩に行こう!」
まぁ兄達の予想通り大人しく船に居る事を放棄したルフィは、昔教えられた唄を口ずさみながら街へ飛び出したのである。
町は今日も人で溢れかえっていた。
お昼頃だからか、レストランもたくさんの人で満席状態なのが外からでも窺えた。
そんな大通りの道を外れ脇道を暫く行くと、少し古ぼけた看板を掲げた一軒の店の前でルフィは足を止める。
そしてキョロキョロと見回した後、ゆっくりとその扉を開いて吸い込まれるように中へ入っていった。
「サーンージー、飯ー!」
入って早々叫ぶルフィに呆れたような声が中から聞こえる。
「ったく、こんな昼間っから誰かと思えばお前か」
カウンターの向こうから姿を見せた金髪の男は、ルフィを見るや否や面倒くさそうにそう言葉を返した。
しかし突然現れて食事を要請するのは毎度のことなのでさして気にもしなくなってきている。
「サンジ、飯食わせてくれ!」
「へいへい。もうそろそろ来るかと思って準備しておいたぞ」
カウンターの向こうから出てきた料理は少し年季の入った風貌の店にしては随分とおしゃれな料理が次々と並ぶ。
その数々の料理に目を輝かせたルフィは、すぐさま指定席となりつつあるカウンターの一番右端の席に座り料理を口にし始めた。
「んほーっうんめぇー!」
「当たり前だ、誰が作ってると思ってんだ」
うまそうに料理を平らげて行くルフィに、サンジは鼻を鳴らしながらも満足そうに答える。
そして煙草を取り出すと照れ隠しのように吸い始めた。
「あー…でも明日からはサンジの飯、食えなくなるんだよなぁ」
「……やっぱ明日、出るのか」
「うん、ちょっと長くいすぎたってエース言ってたし」
「そうか……」
残念そうに語るルフィに、サンジは彼を止めたい気持ちを抑えながら返事をする。
自分を連れて行ってくれ、と何度思った事か。
「最後に、デザート作ってやるよ」
「ホントか!?」
「あぁ。だから少し待ってろ」
そう言って奥に消えて行ったサンジを見送り、ルフィはまだ残っている料理の続きを食べ始めた。
サンジの料理はとても美味しい。
船ではエースとサボが交代で食事を作ってくれて、どちらもとても美味しいのだがサンジの料理はまた違った美味しさがあった。
「やっぱコックって必要なんじゃねぇかな」
一度兄達に相談してサンジを誘ってみようかと考えたが、エースにもサボにも必要無いと言われてしまった。
確かに兄の料理は美味しい。
でもサンジがいるとよりもっと美味しくなる筈なのだ。
「んー、ホント惜しいよなぁ」
ぶんぶんとフォークを振りながら唸っていると、店の鐘が鳴った。どうやら自分以外に客が来たようだ。
しかしこの店は本来夜しか開店しない、ディナー専門の店だ。
店主でコックのサンジがいない以上、自分が断らねばならない。
自分の状況を考えてちょっとおかしいけど、と考えながらもルフィは体を反転させた。
「まだ準備中だぞ……ん?あ、ゾロ!」
「おう」
ゾロと呼ばれた男は緑の頭をガシガシと掻きながら店の中に入ってきた。
彼もここの常連だ、別に構わないだろうと隣に腰かけたゾロににこにこと笑みを向ける。
「ゾロ珍しいな、迷子にならずに辿りついたか?」
「まぁ、今日はな」
腕の立つ剣士のゾロは海賊狩りを職業としている。
本来ならば彼の様な人間とは親しくなったりしないのだが、ルフィは海賊の中でも一癖も二癖もある異色の存在だった。
初めてこの島で会った時はゾロも最初は戸惑ったが、今ではこうして同じ時間を過ごすことも多々ある。
「明日、出航なんだよな」
「うん。もうゾロと遊べなくなっちまうな」
伏せられた瞳にゾロは無意識に手を伸ばし、頭を撫でた。
「そう落ち込むな。どっかでまた会えるかもしれないだろ」
「そう……だな」
何度かゾロとは遊びと称して手を合わせた事がある。
その腕は確かで、三本の刀を操り繰り出す技は勇ましく、そしてどこか美しくもあった。
その姿に一目惚れして兄達に相談した事があった。
是非剣士を仲間にしよう、と。
しかしながらエースとサボの答えは否だった。
海賊狩りが職業の人間が海賊になんてならないだろう、それが大きな理由だ。
「でも寂しいぞ」
小さい声で呟くと、ゾロから苦笑が漏れる。
きっと子供だと思われてるんだ、そう想うとちょっぴり悔しくて顔を上げた。
「へ?」
が、そこで目の前に突然小さな箱が現れた。
正しく言えば、ゾロがルフィに差し出している。
片手に収まるくらいの大きさの白い箱は、少しゾロには似合わない代物だ。
「やるよ」
少し赤くなった頬を掻きながら、照れ臭そうに差し出された箱を見つめる。
「ただし、誰もいないとこで空けろよ?」
「うん!ありがとうゾロ!!」
そのまま勢いで抱き着いたルフィの体をゾロは受け止めると、ゆっくりとその小さな背に腕を回す。
「本当は…、………いんだが」
「え?」
小さな声で呟かれた言葉はルフィに届く事はなかった。
それでも満足したのかゆっくりと体が離される。
「兄貴達に迷惑かけんなよ。んで、俺が狩るまで掴まんな」
「当ったり前だ!ゾロにもやらせねぇけどー」
にしし、と笑みを浮かべ互いを見つめあってから、ゾロはルフィの口元を親指の腹拭いそのままぺろりと舐める。
「ま、飯もまともに食えないようじゃ怪しいがな」
「なんだとぉー!」
「ははっ。じゃあなルフィ、ハッピーバレンタイン」
「はぇ?」
その声と共に箱を持ったままの手にキス。
突然の行動と聞き慣れない言葉を耳にし、首を傾げる。
しかしゾロに聞き返そうとするも、彼は早々に店を出てしまった。
「変なゾロだ」
呟きは店に響くばかり。
仕方がないので箱はポケットにしまい、後少しになった料理に鼻唄を歌いながら手を付けた。
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