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描いた夢と優しい君。


10/10のスパークでの無料配布本。
誤字少し訂正しました。
暗く歪んだサボエールでパロ。














生まれてすぐに、俺達兄弟は捨てられたらしい。
孤児院の先生達がそう話してくれた。
それは自分達がまだ十歳にも満たなかった頃の事だ。
だから俺達は卒院する年齢までここにいて、そのあとは二人で自立して親を探そう。
そう幼いながらも考えていた。
弟は自分より二つ下だったためか、まだまだ甘えたがりで世の中を知らない。
だからずっとここで俺が守ってやらなくてはならないと思っていた。



「サボ、ルフィ。親戚の人が迎えに来てくれたわよ」



それなのに十歳の誕生日を迎えた日、突然院にやってきた男は俺達二人を親戚だといって連れ去った。
先生やそこで一緒に暮らした家族との別れは意外にもあっさり来て、さっと過ぎ去ったのだ。
それから、少しずつ俺達の世界が歪み始めた。
俺達を引き取った男は、名前を名乗ろうとしなかった。
否、俺だけに名乗らなかった。
そこからもうおかしいと感じていたが、新しい家は院からずっとずっと遠くの土地らしいく幼い俺達には逃げることすら叶わなかった。
しかし最初は男も優しかったので、逃げようなどという考えはすぐに消えていた。
家には男一人しか住んでいないようだが小綺麗で、三人住んでも申し分ないほど大きな家だった。



「うわ……サボ、みてみろキラキラしてるぞ!」

「ああ。これはずーーっと向こうまで続いてるんだぜ」



窓からは海が見えた。たまに感じる潮の香りが心地好かった。
そしてどこか、懐かしさを覚えた。
俺達二人は別に部屋を与えられた。
一緒で構わないと断ったが、男は部屋が余っているからと言うので結局部屋は別になった。
しかし俺達はいつも二人で過ごしてきた。
離れていたら息なんて出来ないほどお互いがいないと不安だった。
だから結局どちらかの部屋で過ごし、眠るように自然となっていった。
それから数日後、男は俺の体に大きな傷を付けた。
突然の出来事だった。
痛みで顔が上げられない、声も出ない程の痛みだった。
たまたま弟は一人海に遊びに出かけていたためこの惨事を見ずに済んだ。
それが幸いだった。
病院は行かなかった……いや、行かせてもらえなかった。
適当な消毒と手当てをされ、後は包帯と服でごまかされた。
その時初めてちゃんと男を見た。
男も、胸に大きな傷跡があった。
帰ってきた弟は俺の姿を見て慌てていた。
何度も大丈夫だと言って抱きしめて、泣き止むまで頭を撫でてその日はそのまま眠った。
次の日から、弟がいない時間を狙って男は俺を殴ったり蹴ったりするようになった。
痣や怪我は全部隠れるところに残ったので、弟が心配するようなことはなくなった。
ただ、一緒に風呂は入らなくなった。
男はどうやら片割れには何もしていないようだった。
寧ろ甘やかしていたと思う。
眼差しは柔らかく、本当に愛しているのだと知った。
だから安心した。弟が幸せなら、構わなかった。



「たんじょうびおめでとう!」

「ありがとう、ルフィ」



それからニ年が経ち、俺は十歳の誕生日を迎えた。
相も変わらず名前も知らない男から俺は暴行を受けていた。
そう、変わったことといえばたまに弟があの男と寝るようになったくらいだろうか。
夜は俺が抱きしめてやらないと眠れない筈の弟。
それが珍しいことにニ年共に過ごしただけの男と眠りにつくのだ。
少し、寂しかった。
それからだろうか、段々と男からの暴力は減っていった。
最近では本当に、たまに受けるくらいだ。
だから久しぶりに、弟と風呂に入ることにした。
その時俺は知った。
片割れに無数の鬱血があることを。



「ルフィ……それ、」

「あぁ、うん。なかなか消えないんだこれ。サボもだろ?」

「え?」

「これのせいでいっしょにおふろ入りたくなかったんだろう?サボのはきえかかってるけど……やっぱりはずかしいもんな」



そういって湯に浸かり、ルフィはにっこり笑った。
違う……俺のはお前のとは違う。
なんだそれは、どうしてなんで、いつの間に。



「そうか……それで」



ルフィで遊べるようになって、それであの男から俺への暴力が減ったのか。
何と言うことだ、俺が守ってやらなくてはならないはずなのにそんな辛い想いをさせていたなんて。
しかも自分はそれに気づかずのうのうと……



「ごめん……ルフィ」

「なんでサボがあやまるんだ?」

「俺は何も……してやれなかった。守ってやれなかったんだ」

「きにするなよ。ここのせいかつだってくるしいことばっかじゃないだろ?」

「……まぁ」

「それにおわりはくるんだし。いまはいいんだ、これで」



その時のルフィの横顔はしっとりと濡れた髪が張り付き、なんだかとても綺麗だった。
そして緩やかに笑みを浮かべていた。
風呂から上がると、男が現れルフィに今日は部屋に来るようにと言う。
それに頷くルフィを俺はなんとなく見ないようにした。
その日は布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
ルフィが今何をしているか考えると、いてもたってもいられなかった。
何度も寝返りをうっていると、突然部屋へと光りが差し込んだ。
慌て起きて見れば、入口にはいつものお気に入りの赤いパジャマ姿のルフィが立っていた。



「ルフィ、どうした。あいつはどうしたんだ?」



それにルフィは反応を示さなかった。
逆光で顔もよく見えない。
すると突然ルフィは俺の手を掴んで部屋を飛び出した。



「ルフィ、ルフィどうし……!?」



良く見えなかった顔には、紅が飛び散っていた。
よく見れば洋服や手にも付いている。
もしかしてあいつに怪我でも負わされたのかと半ば頭がパニックを起こしかけた。
そんな中、ルフィはある一室の前で立ち止まる。
あの男の部屋だった。



「アレがね、サボのことすきじゃないっていうんだ」



ドアから見えた光景は、何と言えばいいだろう。



「だからね、サボにしたことと……おなじことしてあげたんだ」



ベッドの上で意味のわからない言葉なのか悲鳴なのかわからない音が鳴り響く。
体を貫いているのは包丁だろうか。
男の古傷の上にぴったりとはまっている。



「あした、いっしょにうみにいこうよサボ」



真っ白い部屋にはたくさんの紅が色を放っている。
男は懸命にルフィを呼ぶ。
その時初めて、俺はしっかりと男の顔を見た。
漆黒の髪と瞳。
顔に散らばるそばかすは、自分の想像していた男とはかけ離れたイメージを与える。
伸ばされた腕に、何か刺青があるのを見つけた。
思わずくいいるようにそれを見つめる。



「……アレも、いっしょでいいか?」

「もちろん!サボがいうなら、いいよ」



そうか、お前は寂しかったんだな。俺が羨ましかったんだ。
でも仕方がないよ、だってお前だって一人占めしてたじゃないか。



「なぁルフィ、こいつの名前なんて言うんだ?」

「エース、って言うんだ」

「そうか……エース、これからお前は俺たちと兄弟だ」



杯は三つ必要だ。
それからこの家に酒はあったかな?
後でゆっくりと調べる事にしよう。



「これからは悔いのないように、自由に生きよう。なぁ、兄弟?」



俺は……俺達は、その紅を見て笑みを浮かべた。













描いた夢と優しい君。

(大丈夫、俺たちは兄弟だから)









END




前世ではサボがエースを、現世ではエースがサボを羨ましいと思ってたら。
弟と共有する時間の取り合いは生まれ変わっても続いていた、みたいな。
エースの年齢は書いておりませんが多分二十歳くらい…かな。
もっと上も好きです。(聞いてないよ)
無料配布本でした。
お手に取って下さった方、ありがとうございました!


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