白石の霍乱
※いつも以上に長い上に白石に格好良いところがないというか、率直に言うといつも異常に白石がおかしいです。
「白石くんは格好よくてナンボやろ!」というお嬢さんは読まない方が良いと思われます。
あと普段の3倍くらい長いです(異常)

 *



白石「ぇっくしょい!」
謙也「ぶはっ!おま、それまんま加トちゃんのクシャミやん!」
っていう謙也と白石。


健康フェチの白石は、健康を愛するが故に日常生活では早寝早起きを基本とし、栄養面を意識した朝昼晩の3食+3時のおやつ(育ち盛りなのでそこまで徹底したメニューではないと思うんですけど、5色の野菜は毎日きちんと食べるとか、最低でも牛乳は1日1杯飲むとか、その程度は出来る限り意識してそう)をきっちり摂取、うがい手洗いは必ず行ない就寝時に至っては全裸健康法を取り入れるという(あ、パンツだけは履いてますね)、健康と体力を維持する上でやっておいた方がよかろうと思う事を思いついた端から実行しているのではないかと思います。
でもって冬場ならばもれなく早朝の乾布摩擦が加わるはず。朝も早くから起き出して、一日も休むことなくクソ寒い庭先に出て(雨天時は軒先決行)上半身裸で平然と乾布摩擦をする兄に、家族はみんな「このクソ寒いのにようやるわ…」と暖かい室内から寝起きのぼんやりした視線を送りつつ、呆れを通り越して感心。年頃の妹友香里ちゃんに至っては、ここ数年の冬場の恒例行事と化している早朝乾布摩擦に関しては無反応。庭先で兄が上半身裸を晒していても恥ずかしいからやめて!とかそんなことは言いません。だってそんなこと言ってたら白石の妹なんて務まらないじゃん!
もう好きにしたらええやん。それでこそクーちゃんやん。
くらいの勢いで、何気に一番兄の性質を理解しているのがこの妹だとすごくいいです。無関心と紙一重の、あえて深くはツッコまない優しさ。

おっといけね、話が逸れました。

他にもお風呂の中では軽くリンパマッサージ、上がった後はがっつりヨガまでして、さらにそれ以外の時間でも暇さえあればバランスボールの上に腰掛けて骨盤の歪みを正したり、ローラースライドで腹筋を鍛えてみたり、はたまた突然天啓を得たように逆上がり健康法を実施してみたり、学校新聞を書いたり毒草辞典の復習をしている片手間ですら開いている手でハンドグリップをニギニギし、かと思えば机の下に設置した青竹踏みで足裏のツボを刺激していたりと、なんかもう「お前その年でどんだけ体大事やねん!」と、一氏とか謙也当たりなら思わずツッコまずにはいれないような生活をしているのではないでしょうか。

そんな感じで大好きを通り越して健康マニアな白石ですが、そんな白石でも風邪は引くと思います。人間だもの。
特に季節が肌寒さの残る春から蒸し暑い夏へと変わりつつあり気温が安定しない時期は、真冬のクソ寒い日でも薄着でケロッとしていそうな白石ですら体温調整が間々ならずに急激な温度の変化に翻弄されてしまうのです。
お風呂上りに軽くストレッチして体を解しポカポカした状態で布団に入った白石が、しかし朝起床してみると寝る時の室温と全然違くね!?っていう寒さにブルリ、身震い。
パン一姿だから冷気が直接肌に触れて余計に寒いっていう。

   *

そんな訳で白石があまりの寒さに身震いした日の正午、4時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴ってすぐに「さぁやっと楽しいお弁当の時間ですよ」と言わんばかりにご機嫌な顔をした謙也がお弁当と水筒を持って「メシ食おうやー」と白石の所に行けば、白石は4時間目の授業の教科書類を机に出したまま片手の平で目頭を押さえた格好で机に腕をついているのです。
その様子に謙也が怪訝な顔をして「どしたん。なんか考え事してんの?」と声をかければ、白石はその声にハッと顔を上げ、まじまじと自分に視線を注ぐ謙也を見つめ返して「え?あれ、授業終わった?」
「おう。終わったで。昼飯食べようや」
「うわ、俺全然チャイム鳴ったの気付かんかった」
「マジで」
「マジで。なんかちょっとぼーっとしてたわ」
「自分そんなん珍しいやん。眠いん?」
言いながら当たり前のように白石の前の席の人の椅子を引っ張ってきて腰を下ろす謙也に、「眠くはないんやけどなあ」と首を傾げ、教科書類を机に仕舞い込んでカバンの中からお弁当を引っ張り出す白石。

「あれやろ、白石昨日夜更かししたんやろ」
「夜更かしなんかしてへ、へ……」
「何どもってんの」
お弁当の包みを広げる手を止めて笑う謙也に、白石は返事をしない代わりに鼻の上に皺を刻んで険しい顔をしたかと思えば、正面の謙也から思いっきり顔を背けて「ぇっきしっ!」大きなクシャミをひとつ。
白石のクシャミに謙也は目を丸くして、しかしすぐさまぶはっと噴き出して、
「え、何それ、加トちゃん?」
また王道中の王道で攻めてきたなーとゲラゲラ笑い、「久しぶりに白石のネタで爆笑したぁ」とまでほざいて(笑いすぎて)目尻に滲んだ涙を指先で拭う謙也に、白石は鼻をズズッと啜って恨めしげな視線を投げかけて、
「いや、別に加トちゃんちゃうし。ちゅーか狙ってやったわけでもないし」

白石のじとっとした目付きに気付いた謙也が、グッと笑いを引っ込め、
「あ、そうなん?今の素?ごめん、あんまり似とったからさあ」
口先では謝りつつも完全には笑いを殺しきれず顔は若干緩んでいるんですが、謙也がヘラヘラしているのはいつものことなので白石も深くは突っ込まずに「はーっ」とため息をひとつ。
「まあええけど……あんなんで爆笑してもらえんならいくらでも真似した、た……」
「した?」
言いかけてクッと顎を持ち上げて、なんともいえない表情で何かをこらえているっぽい白石に、謙也が身を乗り出して「出すんか加トちゃんを」と、堪えきれなくなってニヤニヤ。
「ちょ、顔近付たらやば、や、や、ばぇっくし!」

一度目より大きなくしゃみが教室に響いて、一瞬教室中の注目が一斉に白石と、ついでにその目の前で盛大にそのくしゃみを浴びて顔をくちゃくちゃにしている謙也に注がれるんですが、しかし白石本人は鼻がムズムズしてそれどころではなく、謙也の方も顔面に白石のくしゃみを浴びた瞬間にとっさにぎゅっと目を瞑ったままの状態で固まってしまっているので、双方その視線には気付かないっていう。

「……白石」
目をぎゅっと瞑ったまま、怒っているのか否かなんとも判別のつかない抑揚のない口調で謙也が名前を呼べば、白石は気まずそうな笑みを乗せつつ首を傾げて「ごめん、唾飛んだ?」
「飛んだ。むっちゃ飛んだで」
「ごめん」
「あかん、今のは笑えへんし、全然加トちゃんと違うやん」
「わざとちゃうねん。いや、別にさっきのも加トちゃんの真似と違うで。たまたま出たクシャミが加トちゃんに似てた……似てたかなあ?いや、それよりなんか鼻の調子がおかしいねんやんか」
言いながら指先で鼻を擦る白石に、視線を寄せていた生徒の中の女子がここぞとばかりに近寄ってきて、「白石くん大丈夫?良かったらこれ使てええよ」とそっとポケットティッシュを差し出すのです。
白石はと言えば、差し出されたキャラクタープリントのかわいらしいポケットティッシュと、差し出して来た同級生女子の顔とを見比べて「貰てええの?ありがとう」ニッコリ。
気心の知れた友達に見せるのと違った(率直に言うなら愛想笑い系の)笑顔を浮かべて優しい口調でお礼を述べ、白石が遠慮することなくそれを受け取って「新しいの今度持って来て返すな。それにしてもえらい可愛えの持ってるな。女子ってこういうの好きなん?あ、返すんやったらこういうんがええってことかあ」
自然と飛び出るリップサービス。
白石は誰に対しても優しく接していそうな気がするんですが、元を正せば単なる事なかれ主義からきているものだといいなあと思います。だから特に親しくない人に対しても、適当な対応をして後でなんやかんやと言われたりしたらフォローするのが面倒くさいから嫌だな〜っていう風に無意識で構えてしまって、それなら最初から当たり障りのない態度で接しようと適度に愛想を振舞っていれば美味しいです。
しかしすごく自然に愛想を振舞うものだから、周りには元々誰に対しても物腰が柔らかい人なのだろうとに思われてしまって、よもやそれが(無意識とは言え)単なる事なかれ主義から派生した一種のトラブル回避の予防策でしかないということに誰も気付かないとかそういうの。

こいつ生まれつきモテる要素しか持ってないんちゃうかな……
聞きながらなんかもう気持ちだけなら完全に笑けてきちゃっている謙也はと言えば、白石と、目の前の白石の存在自体にのぼせた顔をして頬を染めている女子を注視。半眼で。
羨望からくる恨めしさでそういう顔をしている。
わけではなく、本人的には正面からくしゃみふきかけられて挙句その事にれ寺もらえない自分の現状があまりにも、あまりにも可哀想過ぎるやろっていう自嘲の表れとしての半眼なんですが、そんな意味合いを含んでいるとは当然知る由のない女子は謙也の刺すような視線に気付いた途端に、「あ、忍足くんもそれ使てええよ……!」
言い逃げてさっさと退散。

その後ろ姿と、貰ったティッシュを完全に我が物顔で引っ張りだしている白石とをかなり釈然としない気持ちで交互に見比べて「俺はついでか」
ぼやきつつやる瀬ない気持ち一杯で顔に浴びた白石の唾を己の制服の袖で拭う謙也。
これがモテる奴とモテへん奴の違いかなあ……と考えると胸に去来する凄まじい空しさ。

そんな訳でさっきまでゲラゲラ笑っていたのが嘘のように不機嫌そうに顔面の唾を拭っている謙也に、ぼやきを聞き逃さなかった白石が貰ったばかりのティッシュで一度豪快に鼻をかんでから「何がついでなん」
「別にぃ」
「別にって態度と違うやん。あ、謙也も使う?」
と、貰ったばかりの可愛らしいティッシュを差し出す白石の手を、謙也は不機嫌な顔のまま一瞥して「もう拭いたっちゅーねん。ちゅーかお前もクシャミすんなら口に手ぇ当てろや」

何こいつ、超不機嫌になっとる……

謙也のどこか愛想のない言い方に、白石の方も釣られてムッと口を尖らせて、
「ごめんって言うたやん。お前こそ友達が鼻グジュグジュさせてクシャミまでしてんからし……し、」
「おま、手ぇ当てろって言うたばっかやろ!」
またクッと顎を持ち上げて眉間に皺を寄せた状態で固まった白石の口元に、謙也は咄嗟にガードするように手を突き出すわけですが、「……」数秒の短い沈黙の後に突きつけられた謙也の手を白石が自分の手ですっと下げるのです。
「大丈夫」
「ほんまかぁ?」
「ほんまほんま。出えへんか…ぇっくちん!」
「……」
「……」
「……白石」
「ごめん」
「お前……わざとやろ?」
「いや、ほんまにわざとちゃうよ。次はちゃんと手ぇ当てる。ごめん。いや、ちゅーか謙也もクシャミしとる友達を少しくらい心配してくれてもええやろ」
「顔面にクシャミぶっかけられて即座に心配できる奴おらんやろ……」
「まあ理屈はわかるで」
「気持ちもわかって欲しいよな」
「せやからごめんって言うてるやん。あー、あかん、普通にしてたら鼻汁が垂れてきそうや」
言って慌ててまた顔を上に向けティッシュで鼻を押さえる白石。
「鼻汁とか言うなよ」
「やってほんまのことやで」
「ほんまのことでもお前が鼻汁とか言うとちょっとなあ」
「俺が言うと何よ。別に変な事言うてないやろ?」
「まあ変な事は言うてへんけどさあ」
「どうしよう、ほんまに鼻やばい。チリ紙丸めて詰めたいねんけど、家ならともかくさすがに教室でそんなんしたら引かれるやんなあ」
引かれるやんなぁと言いつつ、そこはかとなくぼんやりした顔で新しく引っ張り出したちり紙を半分にちぎって捻り出し、格好良い顔をして外聞を一切気にしない行動を実行しようとしている白石に、家ではやってんのかよと思いつつ、謙也はなんでこいつはこんなにマイペースなんだろうなぁと呆れる気持ち半分、外見が良過ぎるとちょっと格好悪いことするくらいじゃ恥ずかしさなんて感じねぇのかなあと感心する気持ち半分の複雑な視線を投げかけ、手の平を白石に向けて「ストップ!」のジェスチャーをして見せるのです。

「白石くんはそれをどうするつもりやねん」
「……いや、別に」
謙也の問いかけに白石はさりげなく視線を逸らしつつ、手際よく作った2つのティッシュの塊(どう見ても即席鼻栓)をぎゅっと手の平に握り込んでポツリ「やっぱ鼻栓はあかんかな……」
あかん、くはないけどただでさえ人目が多いというか、ほとんどの場所に人目しかないような校内で、噂なんか回るのもあっという間やのに、普通にしとっても人の注目を勝手に集めてまうような白石がそんなん詰めた日にはお前、自分の評判がどうなる事かとか、そういうの気になんねぇの?
と思いつつも、まあそれは俺が勝手に心配してハラハラしてるだけなんだろうなあという自覚もある謙也は、その言葉をグッと飲み込んで「白石が鼻栓詰めた姿なんか多分女子は見たないで。理想の白石像を壊さんといてあげろよ」
「謙也は女子に優しいなあ」
「いやいや。そういうわけちゃうから」
「なんで否定すんねん。別にフェミニストなんは悪いことちゃうやん。変なやっちゃな」
で、白石は友人の風聞を気にする謙也の心配を他所に、目を細めて楽しそうな顔をして見せるのです。
謙也もそんな白石を見たら、つい数十秒前まで本気で鼻栓を詰めようとしていたのと同一人物だとは思えなくて「やっぱり男前って得やな」しみじみ感心。


そのA
そのB




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