作品 | ナノ




「ユウジユウジ!」
「…なん、やねん朝っぱらから」

せっかくの予定のない日曜日の朝、午前5時。3月に入ったとはいえまだ冬の寒さが残るこの時期の早朝に、なにやらハイテンションな名前からの電話で起こされてしまった。ろくに誰からの着信か見ずに出たために、謙也辺りだったら即効で切ってやるつもりでいたのにまさかの名前からの電話。いつもいつも学校には寝坊で遅刻ギリギリなくせになんで日曜日はこんなに早く起きてるだと、思わず部屋の時計を二度見してしまった。うん、間違ってないまだ朝の5時だ。

「あ、ユウジ寝てたん?」
「おー、自分こそようこないな時間に起きれたな」
「うちやっていつも寝坊しとるわけやないですー!」
「あーはいはい」

ほんまやで!なんて朝からきゃっきゃと騒ぎ立てる名前を軽くあしらってもぞもぞと布団を掛け直して中に入る。なんでこんなに寒いのだ、というかどうしてこんな日に名前は起きてるんだ。相変わらず電話の向こうでユウジはいつもそうやとかなんとか拗ねている名前が結局なんで電話してきたかよくわからない。はじめのテンションを継続したまま話だけがどんどん路線変更していく。
まあ名前の電話はいつもこんなもんで、付き合いはじめた1年ほど前はよくもまあこんなに話が変えられると感心していたものだ。きっとこれが普通の女子だったらうっとおしいと感じるものを名前が楽しそうだからまあいいか、なんて思ってしまうのは惚れたもん負けってとこなんだろう。

「で、結局朝からなんやねん」
「せやった!ユウジ外みて雪めっちゃ積もっとんねん!」
「はあ?」
「せやから外見て!」

仕方なく布団から出て部屋のカーテンを開けて外を見ると確かに雪が積もっていた。というかそれより驚いたのは名前が俺の家の前におーいなんて電話越しに話しながら立っていることで、衝撃のあまり窓に頭を打ちつけた。本当になにをやってるんだと急いでコートだけをスウェットの上からはおり玄関まで降りていく。玄関を開けて早く入れと名前を呼ぶとへらへら笑ってお邪魔します、と中へ入ってきた。急いで出てきたのか薄着にコートというかっこうでユウジ寝癖ついとるよ?なんてのんきに俺の頭を背伸びして撫でる名前に呆れてため息をついた、こいつアホだ。

このまま玄関に居るのも不自然なので、とりあえず自分の部屋に通して暖房を入れてやる。隣に座っている名前の手は真っ赤で触ってみると相当冷たい、いつからあそこに居たというのだ。

「朝起きたら雪積もっててな、」
「うん」
「ユウジにも教えてあげたいなーって思ったんよ」
「…あんなあまだ5時やぞ。外暗いやんけ、何考えとんねん危ないやろ」
「ごめんなさーい」

俺は本気で心配してるというのにどうやら名前に反省する気は微塵もないらしい。むしろにこにこと俺に雪だるまを道端で作ってきたと話すくらいなんだから、本当に雪でテンションがどうかしてしまってるのだろう。もしこれが昼間で知り合いなんぞに名前が遭遇していたら路上で雪合戦にでもなっていたんではないかと思うとぞっとした。むしろ早朝で良かったのかもしれない。

「とりあえず朝ご飯食うたら外でも行くか?」
「うーん…、えっと、あの、ほんまはね、雪もええけどユウジに会いたかっただけやねん、なんて」

もごもごと顔を真っ赤にしてそう言った名前を俺は思いっきり抱きしめ、にやけてしまう顔を必死におさえてアホちゃうかとできるだけいつも通りに言ってやった。やっぱり惚れたもん負けだ。

深海から朝焼けを



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