人間には誰にでも、欠点がある。いくら完璧と言われても、欠点はどこかに必ずあるはず。欠点がない人間なんて人間じゃねぇ。 あの神の子と呼ばれる幸村にだって、皇帝と呼ばれる真田にだって、詐欺師と呼ばれる仁王にだって、紳士と言われる柳生にだって、達人と呼ばれる柳にも、もちろん、天才的な俺にも。欠点はつきものだ。 それは俺の彼女も、同じ。 「ブン太ー!お昼食べよー!」 昼休み、教室に響いた声に振り向けば、扉に隣のクラスの名字名前の姿。弁当を持ってないところを見て、すぐに今日の昼飯は食堂だとわかった。 俺は鞄からサイフだけ取り出すと、名前の元へ歩み寄った。 「今日は「食堂だろぃ?」当たり!早くいこっ!」 ニコッと笑うと、名前は俺の腕を引っ張る。 名字名前…3年C組。 コイツはちょっとした有名人だ。 成績優秀。学年順位は柳と一位二位を争うくらい賢い。 運動神経抜群。どんな競技も軽々とこなす。100メートル走は女子の中で断トツトップの12秒ジャスト。本人曰く、目標は11秒ジャストらしい。 容姿端麗。黒髪黒目、純和風な名前は文句なしに可愛いと思う。長い黒髪は艶々だし、サラサラだし、触ると絹のように気持ちいい。周りからは秘かに大和撫子と言われ、特に女子から絶大なる人気を誇る。噂によると、ファンクラブがあるらしい。 もちろん男子からも人気で、前に女子には内緒でこっそりやった男子限定アンケート「彼女にしたい子」「奥さんにしたい子」で二冠を達成している。 さらには生徒会副会長という役職もあり、とにかく名前はなにもかも完璧だ。欠点なんてないじゃん、って思うくらい、完璧。だけど…やっぱり名前も人間なわけで。あるんだよな、欠点。 ま、この欠点はだいぶ前から知ってたけど。知ってた上で好きになったんだし、今さら嫌いにはならねーけど……正直かなり引くわ。 俺の彼女。 名前の欠点、それは… 「おいしそー!」 食堂に着き、今日のオススメランチを頼んだ俺と名前は空いていた席に向かい合わせで座る。いただきます、と手をあわせ、箸を持つ俺とは反対に、名前はブレザーのポケットから何かを取り出す。 「………」 「やっぱご飯にはコレをかけないとねー!」 思わず止まる俺の箸。 名前は気にする様子もなく、平然とそれをぶっかける。 …何度見ても、慣れねーよ。 初めて見た時は俺、目ん玉落ちるんじゃないかってくらい見開いてめちゃくちゃびっくりしたな。信じられなかったぜ。いや、今でも信じられねーけど。 ぶりゅっぶりゅっ! そんな汚ねー音を立てながら、定食にかかる、何か。 「こんなもんかな。よし!いただきまーす!」 「……」 真っ黄色に染まった、飯。 原形がわからないくらいかけられた…黄色いそれはマヨネーズ。名前はマヨネーズが大量にかかった飯を美味そうに食べている。前にあまりにも美味しそうな食べっぷりに興味を持った俺は一口食べたことがある。 ……完結に言わせてもらうけど、あれは人間が食べるモンじゃねェ!あんなに不味い飯は生まれて初めてだ。 そのクソ不味い飯を、今名前は食べている。それはそれは、美味しそうに、幸せそうに。 名前の欠点。 それは味覚音痴なところ。 マヨネーズをこよなく愛す名前は常にマイマヨネーズを持ち歩いている。一本だけじゃなく、何本も。所謂マヨラーってやつだ。とんでもないくらいマヨラーな名前にはとてもついていけない。まぁ…そんなところも好きだけどな。好きだけどちょっとありえねェっつーか……理解できねェ。 「……美味いか?」 「うん美味しいっ!」 満面の笑みを向けられ、俺は苦笑いを返す。 …ヤベェ、食欲なくなってきた。 「…名前ちゃん、またご飯にマヨネーズぶっかけて…いい加減にしなさいって言ってるだろ?」 「あ、幸村。」 俺達のテーブルの横に、トレイを持った幸村が立つ。 幸村は困ったように眉をしかめ、名前にそう告げた。 「精市、どうかしたか?…ん?名字と丸井か。」 幸村の後ろから姿を見せた柳。 「蓮二、精市、何をしている?」 「げ、真田…!」 さらに柳の横から現れた真田に、俺は思わず顔を歪ませた。 なんで食堂に三強が揃ってんだよぃ…息苦しいわ。 真田は俺と名前の姿を見ると、次に名前が食べる飯に目を向けた。 「ん!?」 思わず二度見をする真田。 …そういや真田は名前が味覚音痴のマヨラーだって知らなかったな。 「名字…!なんだその黄色いのは!」 「これ?ご飯。」 「ご、ご飯だと!?そんな黄色いのが…黄色い?…もしかしてそれはマヨネーズか?」 「うん。」 「ま、マヨネーズをご飯にかけたのか!?」 「そうだけど?」 もっさもっさとマヨネご飯を口に含み、当然のように肯定する名前。真田は目を丸くさせ、信じられない、と言わんばかりにワナワナ震えた。 「…っ食べ物を粗末にするんじゃない!!」 「は?」 「本来の味を消してどうする!ご飯は本来の形のまま食べるのが一番だ!だいたいご飯にマヨネーズをかけるなど…たるんどる!お前の味覚はどうなっているのだ!そんな得体のしれないもの…どうかしているぞ!」 「なんですってー!?」 …あーあ。名前の逆鱗に触れたな。俺しーらね。 勢いよく席を立つと、名前は自分より10センチも高い真田の胸ぐらを掴み、睨む。あまりにもキツイ睨みに、ちょっとビビる真田。 「アンタね、マヨネーズバカにするんじゃないよ!!マヨネーズは何にでも合うように作られてるの!最高の調味料なの!どんな料理にも合うの!わかる!?マヨネーズじたいがもう神よ、神!幸村くんよりもさらに上の神なの!あんなに美味しいマヨネーズを侮辱するなんて…切腹しろコラァ!」 「せ、切腹…!?」 「え、なに俺マヨネーズに負けたの?嘘でしょ?」 「…ふむ、名字はマヨラー、と。いいデータが取れた。」 「あ?柳知らなかったの?」 「あぁ。これは予想外だった。」 「ふーん。」 幸村はなんかショック受けてるみたいだけど、その気持ちはよくわかるぜ。名前はマヨネーズバカにされると毒吐くからなぁ…俺も何度も罵倒されて泣きそうになったし。 「マヨネーズは私の永遠の恋人よ!!」 「おーい、お前の恋人ここ。」 「ブン太は愛人!恋人はマヨネーズ!」 「えええぇー!?」 俺、マヨネーズに負けた? くっそー…!たかがマヨネーズに負けてたまるか! 「打倒マヨネーズ!!」 「ブン太、よく言ったね。よし、俺と一緒にマヨネーズを倒そう!」 「おう!」 「…やれやれ。」 なぜか熱くなる俺と幸村。 今だに真田に詰め寄る名前と詰め寄られてどうしたらいいのかわからず焦る真田。 そんな騒がしい声の中に、柳のため息が混じったけど、そのため息にすら気付かない俺達は、ただただ貴重な昼休みを無駄に過ごした。 つーか名前のやつ、マヨネーズばっか食ってるわりには全然太らねーよな…マヨネーズって油だろぃ?油食ってるみたいなもんなのに…アイツの体はいつ見ても綺麗だ。無駄な肉なんて一切ない。……なんて羨ましい。 味覚音痴な俺の彼女 ま、そんなところも好きだから許しちまうんだよなー… マヨラーはもう一生治らねーし。 |