気が付いたら私は跡部景吾の隣にいて跡部景吾は私の隣にいた。私にはちゃんと友達はいるし付き合いだって悪くないと思っている。しかし王様という膜を剥がした奥にいる跡部景吾の本体と触れあっている時間というのは他に替えがきかないほど特別なものだった。誰が付けたか跡部景吾の王様は彼自身を隠してしまっている気がしてならないのだ。何故なら跡部景吾は私の目の前ではアイスを購入するために入ったコンビニで目的のものを購入する前にグラビアを眺めて買いもしないデザート類を眺めてアイスだけを購入して歩きながら食べるのだ。どこにでもいる中学生の模範である彼に王様だなんて似合わない。私はそんなギャップにでも惹かれたのだろうか。跡部景吾はどうだかわからないがとりあえず私はそんな跡部景吾に心底依存していた。 「…暇」 「帰りにどっか行くか」 「ラーメン」 「色気ねえな」 「五月蠅い」 ほらね。彼はただの跡部景吾だ。 いなきゃ嫌だし彼がこの姿を他のみんなにも見せているのは嫌だと思ってしまった。私はどうやらかなりの性悪らしい。窓の外をぼんやりと眺めれば遠くの方で飛行機が真っ青な空に白い筋を引いていった。蛞蝓みたいだ。 「飛行機雲って蛞蝓の白い筋みたいだよね」 「気持ち悪いこと言うなよ」 「だってそうだもん」 「…お前のそういう思考嫌いじゃねぇけどな」 「誉めてる?」 「あぁ」 口元を悪戯好きの糞ガキみたいににたりと歪めた跡部景吾に私は全力のあっかんべえをプレゼントしてやった。跡部景吾は少し悔しかったのか私を鼻で笑った。こいつうざい。 「あんたさ。」 「アン?」 「素見せたらモテないよ」 「見せてねえし」 「やめときなよ」 「あぁ。」 「なんで」 「あぁ」 「私に見せてんの?」 一番の疑問。私は跡部景吾に依存しているから隣にいるし媚びなんか売らない。でも学園1の人気者の彼が私なんかといる理由はない。私に素を見せるためかなだなんてご都合主義な考えを並べてみれば跡部景吾は思った以上に驚いたような顔をしてお前最悪だなと小さく呟いた。最悪だなんてなんて酷い言われようだ。 「お前は俺の素は好きか」 「うん」 「俺は素を受け入れてくれる女が好きなんだ。」 あぁ。彼は依存どころか私に愛を告げた。なんて答えようかとぼんやりと考えていれば跡部景吾は何事もなかったように広げていた私の少年マンガに眼を戻した。 「依存はしてるよ」 「そうか」 「そうか」 「好きかはわからない」 「そうか」 「なんか言ってよ」 「依存ってつまり好きなんだろ」 「うん」 「んならそれでいい」 跡部景吾はよく分からない奴だ。でもそれ以上に私の跡部景吾に対する思いはぐちゃぐちゃで真っ黒だ。でも依存か好意か、わからない関係だから互いが互いを好きだと感じるんだ。 |