なくしたものさえわからずに




 手の中から何かが滑り落ちた。
しゃらりと音を立てて地面にぶつかったのは古銭の様だが、何時手に取ったのか、それが自分の物だったか、思い出す事ができない。それでも気味の悪さ等覚えずひょいと拾い上げた。


「なんだ、これ」


 見た目は古ぼけて汚いが、響く音は耳障りが良く心地の良さを覚える音だ。紐に通された銭は六枚。つまりは六連銭で、三途の川の渡し賃らしい。いったい誰かこんなものを好き好んで付けるのかと馬鹿にした気持ちで眺めていた。


「佐助」


 背後から突如聞こえる自分を呼ぶ声にへらりと笑みを浮かべて振り返ると見知った顔が無愛想にあった。


「そっちはもう終わったの、才蔵」
「当たり前だ」


 表情と違わずぶっきらぼうに返される言葉に佐助はまた笑う。俺を見習えば、と言いたくなったが見返りは拳だろうと予想して止めた。(手は紅くとも平和主義なのだ)
手に持っていた六連銭をくるくると指先で弄んでいると才蔵の無愛想な表情が僅かに動く。平静を装う様を佐助は見逃さなかった。


「お前。それは、」
「あ、才蔵のだった?」
「何言って…」
「あ、」


 眉間へ刻まれていく皺を眺めながら変わらずくるくると回しているとふわり、と宙を舞って草の上に落ちた。しゃらりと耳障りの良い音に何故だか今度は息苦しさを覚える。


「…なんか、気付いたら持ってたんだよね。何時手に取ったかも解らない」


 なのに、気持ち悪いどころか変に愛着が沸く。そうぼやけば才蔵の表情は和らぎ大袈裟に溜め息を吐いた。


「捨てるのか」
「捨てらんない、気がする」


 落ちたままの六連銭を拾い上げて付着した泥を払うと今度は落として仕舞わないようにと懐へ引っ込めた。それを見計らってか才蔵は最初と同じく「当たり前だ」と意味深に呟いて消え失せた。





 しゃらりとまた懐で音がする。
 耳障りの良い、虚しい音だった。



<<20080914>>









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