壁ドン


「『壁ドンされる役になってほしい』?」

「そっ!さっそくだけどこっちのロッカーに寄っ掛かって〜」

「おっけー任せてー、……って何?どういうこと?は?」

今日も今日とて我が青葉城西高校バレー部三年生は月曜日だというのに部室に集まる。

また及川が何かわけのわからんことを企んでいるのだろうと思いつつも、さすがに無視はできないのが私。今後みょうじなまえのことは女神か何かだと思っていただいて結構だ。

「みょうじ、頼む」

「みょうじにも悪くない話デショ?」

「今日だけだから、誰にも言わないし」

いつもなら及川を馬鹿にして完全に及川孤立モードを作る仲間の岩泉花巻松川でさえも、何故か今日は及川側につくらしい。

なにがあったお前ら。及川教に洗脳されたのだろうか。変な思想を布教するのはやめてほしい。

「ちょっとまって、一回落ち着こう。まず趣旨を話してほしい」

「そうこなくっちゃ!!」

及川(と、裏切り者3人衆)の話によると、何でもバレー漬けで味わえなかった甘酸っぱい青春を味わおう企画らしい。そこで流行りの壁ドンできゅんきゅんしようとしたところ、男同士でやっても何の成果も得られなかったので一番身近な女子である私を呼んだ、と。

「……お前ら馬鹿なの?及川は元からだとしてそれ以外の3人は及川毒に侵されたの?さっさと私をキュンとさせろよ!!」

「なまえちゃんいつもに増して辛辣だけど意外とノリノリだね?!」

「そういやみょうじ、この前少女漫画読みながら私もヒロインになりたいとか言ってたよな」

「えっ声に出てたの?!岩泉聞いてたの?!」

まあそういうことだ。私だって華の女子高生でいられるのもあと一年もない。少女漫画のヒロインに憧れて何が悪い。

正直この馬鹿共たちと共に馬鹿なのは嫌だけど、今日は私も馬鹿でいい。言わないだけで、なんだかんだみんなのことをかっこいいと思ってるし。これはいい収穫がありそうだと踏んだ。

「誰が一番私をキュンとさせられるかだから。かかってこい!!!」

そしてロッカーのある方へ背中をくっつけて待機。どうして壁ではなくロッカーかと言うと、ガシャン、という効果音が甘酸っぱい青春感を助長させるからだそう。ちなみにこれは松川のご意見らしい。

「じゃあトップバッター俺ね!!」

エントリーナンバー一番、及川徹。何やら自信満々っぽいけどむしろ及川の場合は余計なことを言わずに黙っていれば余裕で一番なのではないかと思う。余計なことを言わなければ、の話。



及川が私の目の前にきて数秒見つめあったあと、ガシャン、とロッカーが音を鳴らす。おお、確かに青春感がました気がする。松川すごい。真横に見える及川の手はほどよく筋張っていていい眺めだと思う。

「なまえちゃんの頭、及川さんで埋め尽くしてあげる」

「……………」

圧 倒 的 残 念 イ ケ メ ン 感 。

解説しよう、及川は壁ドンをしたあとどこのキャラクターだというようなセリフと言いながらウインクをした。多分そのウインクした左目からは星が出てきそうな勢いだった。

「どうどう?!トゥンクした?!トゥンクした?!」

「いや、なんかクサイ。キザすぎる。なんかむり。むりだわ。ごめんきもい」

「そんなに拒否らなくてもよくない?!?!」

それこそ今のは少女漫画でのみ許されるものなんだきっと。うん、きっとそうだ。あと最近のマイブームなのか何なのかしらないけどトゥンクって何ですか。

「クソ川のそのトゥンクって何なんだよ」

「そのまんまだよ?!抑えきれないときめきを表してるんだから!!」

「じゃあ次俺ね〜」

花巻頼む。どうかこの何とも言えない気持ち悪い感じを払拭してほしい。

エントリーナンバー二番花巻貴大はゆっくりと私の方へ近づく。あ、やばい。この時点で結構かっこいいかも。

ガシャン、と、今度はさっきの及川より少し控えめな音が部室に響く。

「なまえ、好きだよ」

「……うん、私も好きだよ」

シンプルイズベストとはこのことだろうか。思わず私も、花巻と見つめ合いながら好きだと伝えてしまった。キュンときた。きたよ。多分少し私の顔は赤い。

しかしそれとは対照的に花巻の表情はしてやったり、という顔をしていた。

「及川より俺の方が上手だね〜」

「クッソ……!!別にいいもん!!俺のがいいって子達だってたくさんいるし!!」

完全に拗ねたモードに入った及川は放っておいて、エントリーナンバー三番松川一静の出番だ。

ガシャンッ、ロッカードン発案者というだけあって、松川のドンは割と勢いがあった。音が大きい。これはどちらかというとキュンよりビクッだ。

「俺の言うこと、聞けるよね?」

「ヒイイ怖い怖い怖い助けて!!」

私はすかさず松川の腕の間からすり抜け離れる。
いやもうこれ脅しだから!!他の人がやればキュンとくるかもしれないけど松川がやるとただ脅されてるだけだから!!

「まっつん危ない雰囲気だよそれ」

「いい意味じゃなくて悪い意味の“危ない”ネ」

「松川威圧感しかなかったよ……、ラスト岩泉、よろしく」

「お、おう……、なんか恥ずかしくなってきた」

エントリーナンバー四番、岩泉一。さあこい、私をキュンとさせてくれ。

さっきの松川とは真逆に、少し控えめなカシャンという音。おお、ソフトタッチスタイルか。

「……えーっと、幸せにできるかはわかんねぇけど、大切には、するから」


一瞬の静寂。そして、


「「「「トゥンク………」」」」

これが、これが“トゥンク”か。わかったよ及川。
何も私だけがトゥンクしたのではない。ここにいる全員が岩泉の貴重なデレにトゥンクした。

みなさん、これが、トゥンクです。


***

リクエストでいただいた『しつこくトゥンクした?と聞く及川』『岩ちゃんのデレにみんながトゥンク…ってなる話』です。

お気に召していただければ幸いです。リクエストありがとうございました!

なんかよくわからん謎の壁ドン大会が始まってしまいましたね。私的には誰に壁ドンされても美味しいです。でもいきなり松川に壁ドンされたらちょっと怖いと思うんです。


mokuji