王様ゲーム


「クソッ……、なんで俺が及川とポッキーゲームなんだよ」

「俺だってマッキーとポッキーゲームするためにポッキー用意したんじゃないし、なまえちゃんとするためだし、これじゃマッキーゲームだし」

「そうなってたら私セクハラで訴える。あと変なボケいらない」

「そもそも確率考えろよボゲェ」

「4分の1しかみょうじの可能性ないのにな」

放課後の男子バレー部部室。女子からの圧倒的人気を誇る及川徹と、及川に劣るとはいえ女子からの人気が充分ある花巻貴大。
この二人が向かい合い今にもキスしてしまいそうな瞬間が訪れているだなんて、誰が予想しただろうか。


事の発端は10分ほど前まで遡る。



「王様ゲーム、はっじまるよ〜!!」
「………」
「………」
「………」
「………」

月曜日だというのに部室に集まる我が青葉城西高校男子バレー部三年生。プラス、マネージャーの、私。

一人声を張って盛り上がる我が青葉城西高校男子バレー部部長。プラス、冷めた表情でそれを見る、

「頭いってんな」

「元々おかしいけどな」

「オフに部室集合とか言い出して何かと思ったら……」

「しっかり割り箸用意してんだね」

岩泉、花巻、松川、私。

「もう!!みんなもっとのってよ!!」

ぷくーっと頬を膨らめる及川のこの顔は、及川ファンたちがみたら相当胸に突き刺さる何かがあるのだろう。もちろんここにいるメンバーは私も含めて何も感じない。

「じゃー、私帰るわ」

「ちょっとなまえちゃん?!」

こんなことに付き合ってたまるか。そもそもなぜ王様ゲームをやろうなんて考え着くのか。

「みょうじ、冷静に考えろ」

そこで私を諭すかのように言う岩泉。

「運次第で、及川をメタメタにやってやれるゲームだ、これは」

「岩ちゃん物騒なこと言わないで?!」

……なるほど。そう言う考え方もできる。及川をメタメタにしてやろう主義でみんなが挑むというのは自分たちもメタメタにされる可能性がある。だがメタメタにされる及川……、見たい。ハイリスクハイリターンとはまさにこのことだ。

「よっしゃ、乗った」

「この流れで乗られると俺が可哀想だけどやってくれるならまあいっか!!」

そんなこんなで開催された王様ゲーム。

やはり発案者ということだけあって運があったのか、最初の王様は及川。
その命令は『俺と2番がポッキーゲーム』。4番を引いていた私は、序盤から攻めてくるなぁと考えていたが、2番の花巻の顔は世界の終わりとでも言いたい表情だった。その顔を見て2番が誰かを察した及川の顔も世界の終わりだった。お前が言ったんだろ馬鹿か。



そして冒頭に戻る。ある意味で及川をメッタメタに追い込んではいるが、花巻貴大という尊い犠牲が出た。アーメン。

あー、それ以上近づいたら本当にキスしちゃいそう……!!なんか見てはいけない禁断の何かを目の当たりにしているような気分に当事者二人以外の3人がなっていると、本当に唇が触れる寸前のところでポッキーは折れた。

「うわぁ、寸前だったな……」

「危ない雰囲気ダダ漏れだった」

「私、なんかドキドキした」

気を取り直して二回目。王様は岩泉。当初は及川をメタメタにというテーマであったが、一発目にあの悲劇の物語を生み出してしまったため何のスリルもない命令となった。
うん、岩泉。それがいいと思う。正解だよ。

「1番と2番がハイタッチ」

つまんない!と文句を言う及川だが、ついさっきの苦い経験をお前は忘れたのか。
ちなみに2番は私。

「あー、1番、俺だ」

「松川ハイタッチ〜」

どうやら1番らしい松川に向かっていえーいと両手を差し出すと、パンッといい音が響く。お、私ら相性いいな。

「俺もなまえちゃんとハイタッチしたかった……」

「ポッキーゲームとか調子こくから当たらなかったんだよ!!俺もう結婚できない!!」

未だに花巻はさっきのことを引きずっているようで。もはやトラウマになってそう。結婚うんぬんは絶対関係ないと思うけど。

「じゃあ次!!次いくよ!!!次こそは俺徳な感じにしてみせる!!!」






こんな感じで、その後順に私、松川、またまた岩泉、花巻が王様になりみんな平和な物語を築き上げていた。

そしてなんのスリルも楽しさもない行動に嫌気がさすのは人間の本能だ。

「もう私飽きたー」

「俺もだクソ川」

「異議ナーシ」

「お開きだな」

そう言って立ち上がる私達に向かって及川は訴えかける。

「まってまって!!あと一回だけ!!次は俺が王様になれる気がする!!」

その自信はどこから来るのか。多分王様になった及川はまた、(みんなにとって)ハイリスク(及川だけに)ハイリターンな命令をすることは安易に予想できる。

……しかし、まあ、及川がラスト一回で王様になる確率は5分の1。

「じゃあ最後一回ね」

「なまえちゃんさすが!!」

他の四人もラスト一回ということを了承してくれたようで、チップスターの筒に入った五本の割り箸をみんなで一斉に引き上げる。

「「「「「王様だーれだ!!」」」」」

一瞬の静寂、そして。

「はいはーい!!及川さん王様〜!!!!」

なんということでしょう、また誰かの尊い命が消えることが確定いたしました。
ここで宣言通り王様を引き当てる及川はさすが部長というか何というか。やはり運も実力のうちという言葉はあながち間違ってはない。

「でもさっきはちょっとやり過ぎたから……」

少し考え込む及川。ちょっとどころじゃねえよと言いたげな花巻はもちろんこの上ないスリルを感じているだろうし、私も岩泉も松川もそれは同じだ。

よし!と意気込む及川は命令を決めたそうで、その口を開く。

「3番が俺に愛の言葉を言う!!!」

……そんな恥ずかしいこと、できるわけない。割り箸をこれほど恨むことは今までにあっただろうか。自分の手に握られた割り箸の先端に書かれた『3』の数字は、どう見ても『3』でしかない。

「あっぶねー、俺、1番」

「俺2番、二回目こなくてよかった……」

「俺4番。あー……、ってことは、」

「なまえちゃーん!!!ささっ、ほら早く!!及川さんに気持ちをぶつけて!!」

バッと両手を広げて満面の笑みで「カモン!」と叫ぶ及川。
恨むならこの割り箸か、引いてしまった自分か、私の運命を決めた神様か、はたまたこの悲劇を生み出させた及川か。

いずれにせよ、私はこの命令に背くことはできない。なぜなら私よりも酷い命令だったであろう花巻はしっかりとその命令に従ったからだ。

「お、及川……」

「ん?なになに?」

ニコニコと私に近づいてくる及川。何だよ愛をぶつけるって。本当ふざけるな。ハイタッチにしとけよクソ。

「す、……」

「す?」

どんどん小さくなる声。恥ずかしくて下を向くことしかできなくて、及川だけでなく及川以外の3人が今どんな表情なのかはわからない。
おい、ピコンって聞こえたぞ今、誰だよ録画ボタン押したやつ。

こんな屈辱、さっさと終わらせてしまおう。

「す、すき!!」

半ば投げやりに放たれた私の愛の言葉は、しっかりと及川にぶつかったらしい。

「トゥンク……」

「気持ち悪ぃな、クソ川」

「及川、顔赤っ!みょうじもだけど」

「ときめきの音を言葉にするくらいの破壊力だったのか」


その夜バレー部三年生のグループに送られてきた動画によって、撮影者は花巻だったことが発覚した。

どうやら私が及川花巻のポッキーゲームをこっそり写真に収めていたことがバレていたらしい。ごめんね花巻。おあいこだね。


***

リクエストで頂いた 馬鹿丸出しの及川/青城三年王様ゲーム/及川に『トゥンク…』と言わせる を掛け合わせました。

いやもう書いててかなり面白かったです。とくにトゥンクっていう台詞。リクエスト頂いたとき笑ってしまいました。

リクエストありがとうございました!



mokuji