可愛い彼氏を持つと大変です
「スガさん?!?!?!」
「ゲッ……」
今日は久しぶりのオフだからどこか行こうと、駅前で私の隣を歩く菅原の顔はまさに『やばい』と言いたげとでもいおうか。現代人の語彙力には甚だ呆れるが、これがぴったりの表情だろう。
そんな菅原の視線の先は、『やばい』表情の元凶でもある坊主頭の男の子。少しいかつい。いや、かなりいかつい。どうして私の彼氏である菅原と知り合いなのだろう。どこで知り合ったのだろう。
「みょうじ、あっち行こう」
「え、あ、うん」
どうやら菅原の考え出した結論は無視だそうで。もしかしてこのいかつい坊主が一方的に菅原の事を知っているだけなのだろうか。
大人しく従って先ほどとは違う方向へ進もうとする、が。
「ちょ、スガさん!!無視はよくねぇっす!!誰ですか隣のお美しい方は?!?!」
美しい、と言われていい気にならない女がいるのであれば、是非とも紹介してほしい。
「どうも〜、いつも菅原がお世話になっています。彼女のみょうじなまえでーす」
私は一度背を向けた坊主くんへ再度振り返り、一通りの自己紹介をする。
仮にこの坊主が本当にいかつい系で、菅原との関わりが無いに等しかったとしても大丈夫だ。人に対してお美しいなんて言える人に悪い人はいないだろう。我ながら適当な自論だ。
「おまっ、みょうじそういうのやめろよ!!」
「おお……!!俺、バレー部の後輩の田中っす!!」
彼女いるなんて聞いてないっすよ!と叫ぶ坊主くん、もとい田中くんはやはり菅原の後輩で、れっきとした知り合い枠の人だったらしい。
「いや、だって、彼女いるとか言うのってなんか恥ずかしいべ……」
今まで自分が彼女持ちだという事実を極力口にしてこなかった菅原は、まさかプライベートで部活の後輩に会うなど思ってもいなかったのだろう。後輩を前にして、未だに顔を赤くさせながらあたふたとする情けのない我が彼氏。
田中くんは見た目からは想像もつかないほどの優男だったらしく、『デートの邪魔してスンマセン!では!』と言って颯爽と消えて行った。うちの菅原よりよっぽどしっかりしているように見える。
「まさか田中に会うなんて……」
「まあいいじゃん。これでもう部活帰りとか一緒に帰られるし、どうせばれてるんだからいいよね?」
そうは言ってもどこかこっぱずかしいのか、菅原の赤い顔は変わらず。不覚にも、私にこいつが告白してきた約一年前の時の表情と重なった。
あの日は、バスケ部の私が部活が終わったあと帰ろうとしていた時だった。ちょうどその日はいつも一緒に帰っている友達が休みで、1人で帰ろうとしていた。
「みょうじ、俺と付き合ってほしい……!!」
顔を真っ赤にしながら、同じクラスの菅原がいきなり私の名前を呼び止めたかと思うと、出た言葉はまさかのもので。
いきなりのことで驚いたが、菅原とは1年からの仲だし、かなりその仲もいい方だ。私も気になっていなかったと言ったら嘘になる。……いや、すでにあの時よりずっと前から菅原の事は好きで、自覚が足りなかっただけだけど。
そんな私の返事はもちろん、
「うん、よろしく」
これしかないに決まっている。
「……え…、本当……?!」
よっしゃ……!!と拳を震わせながら声にならない声を上げる菅原の何と可愛いこと。女々しいと言ってしまえば聞こえが悪いかもしれないが、多分私より可愛い。悔しいけど。
もうあれから一年か、と考えると、時が経つのは早いものだ。私も菅原も、インハイ予選を控えてなかなかゆっくり会って話せない日々が続いているが、部活終わりに一緒に帰れるならそれはとても嬉しいことに決まっている。
次の日の学校の休み時間、我がクラスには昨日の田中くんを筆頭に他のバレー部と思われる人たちが私を一目見ようと押し寄せて来たのは言うまでもない。
「スガさん……!!こんな綺麗な方と……!!」
「ほらなノヤッさん!!すっげぇ美しいだろ?!」
「え、菅原さんの彼女っすか?え?」
「影山ちょっとどけよ見えねえだろぉ!!!」
「スガ、俺らにも言ってくれてなかったんだ……」
「何で部長の俺に報告しなかったんだ?義務だろ?」
「お前らいい加減にしろよ!!さっさと帰れよ!!」
うちの彼氏くんは、意外と恥ずかしがり屋さんみたいです。
***
アンケートで頂いたスガさんです。すみません、本人との絡みが薄いです。ついでにわけわからん感じになりました。
アンケートのご協力、リクエストありがとうございました!
mokuji