(自称)恋のキューピッド山口忠
今日は俺の親友とその(未来の)彼女についてお話ししようと思います!!
「ねえ、馬鹿なの?この問題って公式覚えてればすぐ解けるやつなんだけど?」
「は?なに?まだ公式覚えてないだけで覚えたらできるってことじゃん」
「じゃあさっさと覚えなよ。覚える覚えるって覚えてないし、この前のダイエット計画といい言うだけ言ってなにも実行しないんだね」
「数字覚えるの苦手なんです〜。ってかダイエットだってまだ一応頑張ってるつもりだし!!」
試験期間で部活が休み。そんな放課後に集まっているのは、中学から仲良くしている俺とツッキーとなまえちゃん。
今はツッキーがなまえちゃんの苦手な数学を教えてあげているところ。相変わらず辛辣な言葉を吐き続けるツッキーは、こう見えてなまえちゃんに片思い歴三年目。
「まっまあ二人とも!そろそろ国語の勉強始めようよ!」
「山口〜その言葉を待ってたよ!!」
「チッ」
数学から国語にシフトチェンジして喜ぶなまえちゃんと、対照的に不機嫌が増すツッキー。その理由は簡単で、
「はいそこの答え間違ってますよ月島」
「はぁ?そもそもこれ選択肢2も4も合ってるでしょ。この時の主人公の気持ちとか言われたって知らないし」
「公式覚えればできる思考の月島にはわからないかな〜、文脈で判断しないといけないんだよばーか」
数学の時とは立場が逆転して、古典ではなまえちゃんが有利になるからだ。そしてそんななまえちゃんもツッキーに片思い歴三年目。
「うるさいなまえ。もっとわかるように説明しなよ」
「月島がわからないのが悪いんでしょ。こうやって主人公の気持ちわかんないから人に対して酷い言葉しか言えないのかな〜可哀想に〜」
二人ともお互いの事が好きなのにお互いの気持ちには気づかないし、その気持ちとは裏腹にいつも言い合いするし、そりゃあくっつかないわけだ。
そんな俺は、この二人をくっつけるための恋のキューピッドとして人生を捧げてきた歴三年目。なかなかうまくいかないのは百も承知だ。
しかしこうやって高校生になっても3人で同じ場に居られるのは恋のキューピッド山口忠のおかげだということを忘れてはならない!
なんてったってなまえちゃんを俺とツッキーが志望する烏野高校へと導いたのは俺だ。志望校に迷っていたなまえちゃんに、烏野にすれば?と一言。もちろんツッキーもいるよの言葉を添えて。
なんだかんだツッキーのことが大好きななまえちゃんは、あっさり烏野高校への進学を決めて今に至る。
*
「あ、これ終わったらアイス食べに行こうよ!!」
勉強会が始まって2時間ほど、なまえちゃんが提案する。あ、わかった。きっとこれはなまえちゃんなりのツッキーへのアピールなんだな。よし、キューピッド忠、協力するね!!
「いいね!行こうよ!ツッキーも!!」
さあこいツッキー!!頷け!!
「いや、僕はいい。試験期間に寄り道とかあり得ないでしょ」
ツッキー!!ツッキー!!だからツッキーはいつまでたってもなまえちゃんとの関係を変えられないんだよツッキー!!頭いいくせにこういうところ弱いんだから!!
「……あっそ。すみませんでした〜。じゃあ私もう帰る」
ほら!!拗ねちゃったじゃん!!なまえちゃんせっかく頑張ったのに!!
「ドーゾ」
引き止めてよツッキー!!!俺の頭の中はもうツッキーに対するつっこみで埋め尽くされていた。
「え、ちょ、なまえちゃん本当に帰るの?!」
「ごめんね山口ー、また今度アイス食べにいこう。月島抜きで」
完全にお怒りモードのなまえちゃんは既に鞄に荷物を詰め終えている。
どうするツッキー!!どうする恋のキューピッド忠!!
そこでガタン、と椅子から立ち上がるツッキー。
「なんで山口と二人でアイス食べに行くワケ?」
「はぁ?なに怒ってんの?自分が誘い断ったんじゃん」
ちょ、ちょ、二人とも!!山口忠が現状を報告いたします、帰ろうとして立っているなまえちゃんと何か気に障って立っているツッキーの二人の間にはメラメラと炎が!!炎が見えています!!!メーデーメーデー!!誰か消化器を!!
「行きたくないとは誰も言ってないでしょ」
「そう聞こえたんですけど」
久々に本気でお互いが怒っている二人の言い合いに遭遇し、あたふたとするしかできない俺。恋のキューピッド失格か……。
「はぁ……、本当馬鹿」
「意味わかんない何で私が馬鹿って言われなきゃいけないの」
「今日山口と3人で行くんじゃなくて今度2人で行こうって意味だったんだけど」
ツッキーの突然のデートの誘いとでも言えるような言葉に、顔を赤らめて活動停止してしまったのは何もなまえちゃんだけではない。俺も驚きと謎のドキドキ感で動けないし開いた口も塞がらない。顔は熱い。
そして先に復活したのはなまえちゃん。
「え、なに、そんなの言わなきゃ伝わらないに決まってんじゃん!!えっ、もう、何……」
真っ赤な顔で言うなまえちゃんに、俺も賛成したい。ツッキーの言葉にそんな意味が隠されていたとは誰が気付くだろうか。
「文脈で判断しなよ」
フン、と、なまえちゃんから目をそらすツッキーも、思いの外少し耳が赤くなっている気がした。
「そんなの判断材料少なすぎるし……」
「で?返事は?」
既に俺は空気と化しているけど、大丈夫。本望だ。
「……テスト終わったら、ね」
この2人が正式にカップルになるまではまだまだ遠い気がするけど、確実に近づいていってると思う。
頑張れツッキー!!頑張れなまえちゃん!!頑張れ恋のキューピッド忠!!
mokuji