歳上に翻弄されてるっぽい赤葦くん
「木兎ー、なまえきてるよ」
練習中、半開きの体育館の扉の前で雀田さんが木兎さんを呼ぶ。その扉の外には、袴姿の人が立っていた。
遠目からでいまいちわからないが、綺麗な人だな、と感じる。
って、俺は何考えてるんだ。
「あっやべー!!」
呼びかけに振り向いた木兎さんも扉の先にいる袴姿の女の人に気付いたようで、ギョッとした顔をする。
「どうしたんすか木兎さん」
「今日学校新聞?のインタビューとかで部長副部長は広報部の教室集合だった!!わりーなまえー!!今行くー!!」
は?そんなこと聞いてない。恐らく各部長に伝えられていて、本来はそれが部員に伝えられるべきなのだろう。
が、しかし。当たり前だがそんな話は初耳なわけで、隣で話を聞いていた木葉さんたちも、木兎さんに対しやってくれたな……という表情だ。
そしてもちろん副部長である俺もそのインタビューとやらに行かなければならない。軽くタオルで汗を拭き、木兎さんと共に呼びにきてくれた人の元へと駆け寄る。
「もう、しっかりしてよ。もうすぐ私たちで、その後が男バレだから。で、副部長も一緒にきてね」
服装を見る限り、恐らく剣道部の人だろうか。
黒い髪を一つにくくり、俺からしたら身長は低いが、女子でいうと背の高い部類に入りそうだ。近くで見ても、やっぱりその人の顔つきは綺麗で。可愛いというより綺麗。
って、だからさっきから俺は何考えてるんだ。
ぼんやりとしていた頭を再び働かせ、副部長という単語に返すように口を開いた。
「あ、副部長俺です、2年の赤葦です」
木兎さんの隣にいた俺は一歩前に出て名乗る。
「わ、2年生が副部長やってんだ」
「まあ、はい、一応、主に木兎さんの世話係っすけど……」
「あーなんとなく想像できる」
「部長の俺あってのあかーしだけどな!!」
えっへん、と何故か胸を張る木兎さん。こいつ何言ってんだ。何が部長だ。現に大事なことを忘れていたではないか。
目の前の彼女も同じことを思っていたようで、さっさと準備してきてね、と一言告げて校舎へと向かっていった。
「あんた、あとでちゃんとなまえにお礼言いなさいね?」
「わかってるって!!赤葦飲み物飲んだなら行くぞ〜!!」
自分が悪いのに、どうしてこうも仕切りたがるのだろうか。
*
部活動インタビュー、と言う名のインハイ予選への意気込みを語らせられたあの日から数日。
普段は休み時間は教室でゆっくり過ごすことが多いが、今日に限っては昼休みに購買へと向かっている。
母の作ってくれるお弁当プラスおにぎりを常備しているはずなのに、どういうわけか今日はそのおにぎりを忘れてしまったのだ。
棚に残るおにぎりはシャケおにぎりがあと一つ、それに手を伸ばす。
「あー」
俺がおにぎりに手をかけた瞬間、斜め後ろから落胆の声が聞こえた。
誰かこのおにぎりを狙っていた人が他にいたのかな。振り返って確認してみる。
「あ、なまえ、さん」
「……え?」
そこにいたのは先日木兎さんを体育館に呼びに来たなまえさん。
……いやいやいや、俺、何勝手に下の名前で呼んでんだ。いやそもそも苗字知らないし。まず気安く話しかけられるほど知り合いでもない。
あの時一回会話にもならない会話をしただけだし。現に俺に名前を呼ばれた彼女は誰だこいつという顔だ。
髪を下ろした制服姿だと、この前とは打って変わって可愛い雰囲気だな、……って、またやってしまった。
何だこの人、無意識に魅力を振りまきすぎじゃないか。俺が変に意識しすぎなんだという意見は認めない。
「あ、足川くんだっけ、木兎の」
「……あ、えっと、すんません。赤葦です、あかあし」
いや、これはしょうがないと思う。会ったのなんて一瞬だし、なまえさん(苗字不明のため仕方なく下の名前で呼んでいるのであって決して下心はない)の中では俺の存在なんてほぼ記憶になかったんだ。そもそも赤葦なんて苗字覚えづらいに決まってる。
「あーごめん、赤葦くんね。私はみょうじなまえだよ」
って知ってるかーだから名前呼んでくれたんだもんねー、と言ってなまえさん……、改めみょうじさんは購買を後にしようとする。
「あ、みょうじさん!このおにぎり……」
早い者勝ちとはいえ、先輩、そして(一応)知り合いである人には譲るべきだろう。
振り向いたみょうじさんは、にやりとした笑顔だった。
「なまえさんのままでいーよ?次は私におにぎり譲ってね、京治くん」
俺が何て返せばいいかわからず口をパクパクさせている間に彼女は購買から姿を消してしまった。
次?次があるのか?なまえさんって呼んでいいのか?
「京治くん、か……」
なまえさんに呼ばれた自分の名前。少し特別に感じたのは、普段京治くんなんて呼ばれ慣れていないからだ。きっと。
………俺、あの人に下の名前教えたっけ。
事の真相は来週へと続く。
***
続きません。
思いつきで書いただけ。女の子の部活は別に何でもいい。赤葦に綺麗な人だなって言わせたかった。
こんな感じで始まる連載誰かください。
mokuji