ぐんぐんヨーグルトな君に貢ぐ


「影山〜」

「っス」

昼休み、飲み物を買いに行くため自販機へ行く。これが私の日課だ。

そこで見知った部活の後輩を発見したので、名前を呼んで話しかけた。

「飲み物買いにきたの?」

見よ、この自然な流れ。自然な流れで会話を作った。『1日合計10分間影山と話す』、私の座右の銘だ。

実際は聞かなくても、多分ぐんぐんヨーグルトを買いにきたんだなっていうのは日頃の調査でわかっている。(誰だストーカーとか思った奴)

「そっす。あ、でも先輩先どうぞ」

「ありがとー」

もちろん大好きな後輩を存分に甘やかしたいのが先輩の性である。

私は小銭を自販機にチャラチャラと入れて、ぐんぐんヨーグルトのボタンを押した。

「……みょうじさんも、それ好きなんすか?」

キョトンとした顔の影山。カワイイ。KAWAII。何これ。可愛いの暴力としか言いようがない。

「違うよ影山にあげるって意味!はいどーぞ」

取り出したぐんぐんヨーグルトを差し出すと、影山は受け取ろうか一瞬迷うそぶりを見せつつも結局受け取ってくれた。

「………っ!!」

駄目だ……。私があげたものを影山が持っている……。影山が、可愛い……。
自分の気持ちが抑えきれずその場に膝をついてしまう。

あの人なに、という周りの視線や声なんて気にしない。

「?どうしたんすか……?」

「おいみょうじ!!廊下で変なことするのやめなさい!!」

影山の可愛さに涙をこらえながら床にへこたれこむ私の頭上から聞こえた声の方を向く。

「あ、澤村、スガ」

偶然通りかかったらしい二人の顔を確認して、とりあえず一旦は影山への気持ちが収まったので立ち上がる。

「っス」

影山もスガと澤村に気づいたようで、私にしたみたいに短い挨拶をする。はい可愛い。

「おーっす影山。お前はま〜たみょうじに甘やかされてんのか?」

ニカッとスガは笑って影山に聞いているが、私は甘やかしているつもりはない。影山への溢れる思いと日頃の(癒しとか目の保養とか癒しとかを)ありがとうの思いの結果だ。

「ぐんぐんヨーグルト買ってもらいました」

「みょうじ、影山に何か買ってあげるのはいいから廊下の床に座り込むのはやめろ」

「だって影山が……影山が……」

そう、影山が。影山が悪いんだ。

「俺のせいっすか?」

「影山が可愛いから……!!!」

影山が可愛いのが悪い!!罪!!ギルティ!!はい有罪!!言動全てが可愛い!!

澤村とスガはやれやれと呆れた顔つきになり、影山は未だにハテナを浮かべている。

「魅力を振りまきすぎなんだよ影山……ほんっとうにいつ誰に襲われちゃうか気が気でないよ私は……」

見た目はイケメンで高身長。プレーは静かで正確に見えて、内心は勢いと気合いが充分。そのくせ本人の性格はちょっと抜けているただのピュアな少年。

こんな影山飛雄を誰が放っておけるだろうか、いや誰も放っておかない(反語)。

「お前が一番犯人になりそうだべ、影山逃げろー」

「みょうじの話は真面目に受け取らなくていいからな」

「??とりあえず俺は警戒してればいいってことですか?」

「「みょうじにな」」

「私から影山を引き離さないで!!」

はい帰るぞー、とスガに腕を掴まれ無理やり教室まで引っ張られる。
いやまだ私の飲み物すら買ってないんだけど。

「やだー!まだ影山と話したいー!」

「部活で会えんべ」

「みょうじも影山も部活に顔出さないことなんてないんだから放課後だけで充分だろ」

スガと澤村は困ったものを見る目でそう言ってくるが、世の中そんなイージーモードではないのだ。

「バレーが関わると私の相手してくれないもん……」

「「あぁ……」」

一気に可哀想なものを見る目に変わった二人。それはそれで失礼だということをお気付きだろうか。

「か、帰りとか一緒に帰ったりするってのは?」

「確かにお前ら方向同じだもんなぁ!」

やめろ、慰めるな。逆に惨めだ。やめてくれ。何度も言うが人生イージーモードではないんだって。

「日向と影山の二人の間に入れと……?」

「「あぁ……」」

さすがの私でもあの二人にわざわざ入って影山と一緒に帰りたいなどとは思わない。

「だから私は昼休み自販機に行って影山に会うしかないの!!」

何のために毎日毎日自販機まで行って、無駄に飲み物を買っていると思っているのか。

おかげで私のお財布事情は毎日の飲み物代でいっぱいいっぱい。
今日みたいに影山の分も買ってあげるときもあるから、普通の女子高生のように美味しいものを食べたりとかショッピングとか、そんなことする余裕はない。

「え、もしかして影山に会うために今日自販機行ってたの?」

「だーかーら、今日、っていうか毎日ね。毎日影山に会えるように」

「影山にストーカーには気をつけなさいって言っておかなきゃ……」

「影山にストーカー?!誰にストーカーされてんの?!許さないわたしが倒す!!」

「「みょうじにな」」

………いやいやいや。私がストーカー?ふっ、笑わせてくれるわ。

私はストーカーとかそんな物騒なもんじゃない。可愛い可愛い後輩と少しでも接点を持つために日々努力する普通のジェーケーだ。

「あの、みょうじさん」

スガと澤村に貼られたレッテルに不満を抱いていると、後ろから声をかけられる。どうやら私たちを追いかけてきたらしい。

「影山!!どうしたの?!教室あっちだよね?!お小遣いほしいの?!今財布にあと170円くらいしかなくてね……」

ゴソゴソと取り出した財布の中身を確認する。

「いや、そうじゃなくて……」

そう言った影山は、ガバッと勢いよく頭を下げてきた。

「…………?」

そしてまた勢いよくガバッと起き上がる。

「飲み物のお礼、まだ言えてなかったんで。アザッした!!」

と言って影山は私と澤村とスガに失礼しますと告げて教室ヘと戻って行く。

「いやーあいつも律儀だなー田中たちにも見習ってもらいたいべ」

「律儀というかなんというか……ってみょうじ?!何泣いてんだ?!」

「うっ、影山……なんていい子なのっ……!!っ、可愛い……!!大好き……っ!!」

ドン引きのスガと澤村は一人涙をしみじみと流す私を置いて、そそくさと自分たちの教室へと戻っていってしまった。

でもそんなのどうでもいい。

明日も明後日も、昼休みはあの自動販売機へと私は向かうのだ。


***
ナニコレ感。もっと違うときめきちっくなものを書きたかった。

そしてこの主人公の言ってるセリフはだいたい最近私が言っているセリフです。本当気が気じゃありません。あの子可愛すぎなんですけど何なんですか。最近はただのヒロインか何かだと思ってます。


mokuji